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「もう戦争は終わった、男女同権だ、とでも言うのかね」
「そ、そうです」
「若いな。幸宏。人の意識は戦争の前と後で簡単に変わるものではない。婚姻は今後末永く続く家同士の結び付きだ。一時の感情で決められるものではない」
「けれど……相手に好意を持てなければ末永く添い遂げられるわけがないでしょう、知子は良くて何故僕にそんなこと言うんです」
「知子の婿は柊山が見立てた男だ。後藤家なら格も申し分ない」
「そこまで柊山先生を信用するなら、僕より先生に話を聞いてくださいよ、先生なら幸子……いや、野原君のことをよくご存知です」
「なら、何故奴から儂に一言の連絡もない? お前も、人を招く前に儂に事前に筋を通すべきだろう」
……ラチが空かない。
普段の彼なら膝を打って捨て台詞の一つも吐いて部屋を飛び出すところだ。
知らず腕に力が入る。怪我した右半身は感覚に乏しい。
ここから出て行くか?
……だめだ。
逃げちゃ、だめなんだ。
「伯父さんにお伝えするのが前後したことは謝ります。僕は気軽に訪ねて欲しくて彼女を誘いました。けれどそれが軽率だったと言うんですね」
「お前がではなく、相手の女性がな。未婚の女性にあるまじき行動だ」
「彼女は僕の招きに応じただけです」幸宏は即答する。
「僕は彼女に求婚をしています。まだ返答をもらっていません。だから招待に応じたからといって彼女を軽率だと受け取らないでやって下さい」
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