【12】夏休み

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◇ ◇ ◇ 夏の休暇はあっという間に終わってしまう。 客人として接待されるのを良しとしなかった幸子は、来訪の目的そっちのけで武本家で家事その他を率先して手伝った。 「いいから座ってて下さいな!」と伯母や知子らが止めてもきかなかった。 「もてなされるの、慣れてないんです。お願いですから何かやらせてください!」 ……僕の家に来た時も、ちっともじっとしてなかったな。 ぶちぶちと、鼻歌交じりに雑草をむしっていた姿が思い浮かんだ。 ちりりんと鈴虫風鈴が涼やかに鳴る昼下がり。せっせとぞうきんがけをする彼女を見守って日にちは過ぎた。 幸子が幸宏の実家に逗留するのはものの数日。いよいよ彼女が帰京するという前夜だ、夕食が終わった時、思い出したように幸宏は言った。 「そうだ、さっちゃん、ピアノ!」 「ピアノ?」 幸子は食器を片付けながらおうむ返しに答える。 「そういえば」知子も同調した。 「どうする? その為に呼んだのに、一度も弾いてないだろう?」 「そう……だけど」 「弾きなよ!」 早く早くとせき立てるように、彼は彼女を立たせる。 「お片付けが残っているのに、いいわ」彼女は渋る。 「明日東京へ帰るのに、今晩ぐらいはいい!」 いいよね、と伯母たちに同意を取り付けて、彼女を引っ張るようにして庭へ出た。
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