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◇ ◇ ◇
幸宏が女性を東京から招いた。
ただの友人のはずがない。
幸子と武家の人たちとの初対面は緊張感を孕んだものになった。
幸宏の伯母、幸宏の妹、幸宏のいとこたち……客間に通された彼女は座卓を挟んで緊張する。落ち着けという方が無理だ。
「野原幸子と申します」
気易い人ばかりだから、と幸宏が言った言葉を信じて、幸子は普段通り、いつものとおりに自分から挨拶をした。
「武君のお招きに預かりましてお伺い致しました」
一度頭を上げた後、再度礼をする。
……これでよかったかしら、と思いながら。
「そう堅苦しく構えなくてもいいよ、ねえ母さん」言うのは、従兄の彰宏だ。
「……なんでお前がここにいるんだよ、病院へ帰れよ」幸宏は低い声で言った。
「今日は臨時休業。急患があれば連絡が来るから大丈夫。だってさ、ユキ坊が嫁さん連れて来るっていうから。誰よりも早く見たいと思うじゃないの」
「そ、そうと決まったわけじゃないんだけど……」へどもどしながら幸宏は受け応える。
「じゃ、何でもない人がわざわざ東京くんだりから来たっていうわけ? 変だろ。ユキ、お前東京でご婦人方とどういう付き合い方してるんだよ」
「大きなお世話だよ!」
いとこと幸宏との応酬が続きそうな中、「あの!」と割って入ったのは幸子だ。
皆に一斉に注目され、一瞬言葉に詰まった彼女はきっぱりと言った。
「ふつつかものですが、よろしくお願い致します!」
「……いい声してるねえ」彰宏は呵々と笑った。
場がふっと和んだ時だった。
伯母が玄関先に視線を走らせ、「お帰りなさいませ」と立ち上がる。続いて知子も後を追った。
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