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「お帰り、って? まさか……」
幸宏は彰宏に問う。
「そう、そのまさか。親父さん、帰ってきちゃったみたいだね」
「なんで! しばらく留守にするって言ってたじゃないか」
「そりゃ、俺がここにいるのと同じ理由だよ。ユキが女性を連れてくるっていうんだから。何を置いても帰ってくるだろ」
「どういう了見だよ! 誰が教えたんだ!」
「俺」
「あ」
「だからここにいるんじゃないの。何かあったら助け船出してやるよ」
――不安だ、著しく不満だ!
とっさに振り返る幸宏が見たものは、開き直り落ち着き払ってかしこまる幸子だった。目配せをして小さく頷き返す。
ごめん、気を使ったつもりがとんだやぶ蛇になった。
だらりと三角巾につられた右腕がやけに重く感じる。
幸宏は深く大きくため息をついた。
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