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「プラスチックで耐えられるかな」 「何の話だ」 「捕獲作戦」  高杉の作戦は飛んできた蛤をボウルでキャッチし、もう片方のボウルで蓋をして閉じ込めたまま網の上で焼いてしまおうという、突き抜けた考えだった。普段なら馬鹿と言って一蹴していただろうが、他に作戦がないのでは反論しようもない。やってみようではないか。  早速炭に火をつけ網を載せる。うちわがないのでフライパンで仰ぎ風を送り炭の火力をどんどん上げていく。炭の表面が赤く光りだし、網に火が通りはじめた。私と高杉はボウルを持ち再度蛤の待つ海へ。  この作戦は蛤の方から飛び込んで来てもらわねば困る。だがこれは簡単だ。ハマグリを乏しめればいいのだ。簡単という一言にあれほど怒っていた蛤なら沸点は低いだろう。  波が足にあたるほどの距離に立つ。するとまた海の中から蛤の声が響いてきた。 「また来たのか弱虫共め」  相変わらず小さい体で大きい事をほざく蛤だ。息を大きく吸い、海のそこまで響くように、蛤まで聞こえるように叫ぶ。 「小粒で味の薄い貝なんぞに興味はない! 海と言えばサザエだ!」  一瞬静まり返る海。私は自分の額を指で二回たたいた。一呼吸おいたその瞬間。海からもの凄いスピードで蛤が飛び出してきた。私の頭部めがけてまっすぐ飛んでくる。しかし既に私はボウルを顔の前に構えていた。最近のネットユーザーの方が煽りに対して耐性をもっているというのに。  殻とボウルがぶつかる音がした瞬間、高杉がもう一つのボウルで蓋をする。蛤は中で暴れ回るが、狭いボウルの中、加速する距離があるはずもなく先程までの強さはない。そのまま二人でボウルを抑えたまま網の上へ。一瞬だけボウルを離すと蛤はそのまま網の上に落ちた。それを見た高杉はすかさず上からボウルを被せる。 「ああああぁぁぁ」  汚い悲鳴がボウルと網の間から漏れ出し、耳に優しくない。しかし焼いて食わねばならないのだ。すまない。  ボウルに熱が伝わったのか、高杉は「あつっ」と、ボウルから手を離してしまったが、もう蛤が動く事はなかった。
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