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 こんな喧嘩は望んでいない。誰か私の口を止めてくれ。しかし私から謝るのは嫌だ。面倒くさい性格と言われればそれまでだが、男には譲れない物があるのだ。それに高杉も悪い所がある。道具小屋からスコップを持ち出したり訳が分からない行動をして、私を苛つかせていた。  ふと、先程高杉が小屋から持ち出した、スコップが目に入った。小屋から三メートルほどの所に刺さっている。目の錯覚か、陽炎のせいなのか、スコップが微妙に揺れているように見えた。体力も限界なのだろうか。脳味噌が目に異常を与え、休まなければいけないと警告している。高杉と言い合うのにも疲れてきた。 「悪かった。元はと言えば私が連れてきたのだ。お前には文句を言う理由がある」  謝ろうと思えばすぐに謝る事が出来た。男には譲らなければいけない時もある。改めて考えると原因は私にあるのだ。自分の非を認めず、無駄なプライドなどにすがっていては、それこそ愚かで馬鹿な事である。先程までの意地になっていた自分が恥ずかしい。 高杉は急に謝られた事に驚いてしまったのか、言葉につまづきながらも「あぁ……」と頷いてくれた。恐らく高杉の中では今、自分も言い過ぎてしまったかという後悔が生まれている事だろう。 面倒な喧嘩は先に謝った方が、精神的に勝利を収められる事が出来る場合もある。相手が高杉のように単純で優しい奴の時などは。 「容姿を馬鹿にされたから俺も怒っちゃったけど……言い過ぎたよ。ごめん」  このように高杉からも謝ってくれる。どうだろうか、客観的に見て私の方が大人に見える事だろう。  しかし問題はこの後にある。そう、仲直りした後に残る妙に照れくさい空気だ。異性同士ならドキドキし、同性同士ならなおさらどうしていいのか分からない。次の一言に何を言えばいいのか。高杉も私と同じように照れくさい空気を感じているのだろう。一言も話さず指遊びをしている。  男同士がそわそわとしている姿程、ノーマルな人間が見て気持ち悪いと感じるものはあるまい。しかし当の本人、つまり私と高杉はどうすればいいのか分からないのだ。ここでこのまま二人でゲイになっている時間はないというのに。
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