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例えば今日の天気が雨だとする。空は雲と雫が支配し、太陽を覆い隠してしまう。例えば今日の夜は雲が多くて月が見えないとする。空を見上げても我々からは月は見えない。
今日は雨だね。今夜は月が見えないね。目に見える感想でしかない。
しかし、どれも見えないだけであって、雲の向こうでは雨が降ろうと太陽は輝き、反射して月も綺麗に輝いている。
つまり目に見える事柄だけが全てではない。
「そこまでは分かる?」
私の友人である高杉が、眼鏡をわざとらしく持ち上げながら問いかけてくる。その眼鏡は私の御洒落伊達眼鏡なのだが、返してくれないだろうか。七三分けの髪型とあいまって、妙に似合っているのが腹立たしい。
黒いシャツがお腹の肉でパンパンに張りつめ、汗で滲んでいる為、綺麗な光沢が出来ていて、健康的な茄子に見える。眼鏡をかけた茄子が二本足で立っているようだ。
頭を働かせる事を嫌い、面倒を嫌い、歩く事を嫌う高杉が、今私の目の前で頭を働かせ、面倒な話をし、生まれ持った二本足で立ってまで問いかけてきている。
それは何故か。仏の顔も三度までという言葉がある。私は自分を仏だと思わないが、高杉が三度目のあやまちを犯した。つまり言い訳をしている。
「そこまでは分かる」
私が答えると、高杉は満足そうにうなずきながら話を……言い訳を続ける。
「俺もそうなのさ、お前の見えない所では俺も忙しいのだ」
高杉が目線を送り、私の反応を確認している。
「続けて」
冷たく言い放つと高杉はすぐに視線をはずし、何処を見ていいのか、部屋の隅から隅を視線でつなぐように、せわしなく目を動かす。
「君からは私が汚れたスモッグのように見えている事だろう。しかしその裏側では月のように暗闇を照らし夜道を歩くものを助け、太陽のように輝き人々を元気づけている。その多忙さ故に、お前から借りたお金を返し忘れたり、着信に気付かなかったり、約束を土壇場キャンセルせざるをえなかったんだ」
「つまり何をそんなに忙しくしていたのだ?」
「……人助け?」
高杉が人を助ける所など見た事もないし、想像も出来ないのだが、こいつの言うとおり表面しか見ていないという事なのだろうか?
「そうか、それは良い事をしたな。これまでのあやまちは許そう。では、金を返してくれ」
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