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天気は曇り空、昼ごろの街中。待ち合わせ場所である近くの映画館前に念のため十分前から待機。いまだに高杉の姿は見えず。だがこれは想定内。高杉が待ち合わせ場所に早く来るはずもない。今頃頭の中の馬と鹿に餌でも与えている事だろう。
そう思って待ってはみたが、既に約束の時間を二十分過ぎた。だがこれも想定内。実際に用事のある時間から三十分前に待ち合わせを設定しておいたのだ。つまり後十分はある。
それから五分して、高杉は現れた。今日もまた黒いシャツを着ていて、相変わらずの茄子だ。実際には間に合ったのだが、高杉はそれを知らない。少し悪戯心で冷たくしてみる。
「二十五分の遅刻だ」
昨日の今日で、ばつが悪いのか、高杉はしどろもどろに適当な理由をつける。
「人助けしてた……」
「お前はいつも人助けで忙しそうだな」
労うそぶりを見せると高杉は「分かってくれる?」と、頭を上げ申し訳なさそうな顔をしている。実際の所、人助けをしていたのかは怪しい。
「ではそんな忙しそうなお前の為に、飯を食わせてやろう」
「無料(タダ)?」
「無料だとも」
小さくガッツポーズを決める高杉を尻目に、私は歩く。馬鹿は餌を与えればすぐについてくる。ついてこない馬鹿は阿呆だ。つまり阿呆より馬鹿は扱いやすい。
楽しそうにしている高杉を連れ、映画館前から数十分、汚い路地を抜け、さらに臭い路地を抜け、陰湿な路地裏を少し進むと、見るからに古く、質素ではあるが大きな洋風の建物にたどり着く。建物の上部には看板があり、そこには『シネマ・ペンギン』と書かれていた。
ひび割れてボロボロのコンクリートの壁に、どこかの不良共が描いた無駄にアーティスティックな落書き。いくつかある窓は向こうが見えない程に汚れていて、外から覗くことは出来ない。入口と思わしき両開きの扉の横にはいくつか映画のポスターが飾られているが、聞いた事もないようなタイトルと、昭和の臭いが漂う俳優たちが現代人である私の興味を全くひかない。
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