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「ペンギン二人で」
「御一人様二千円で、合計四千円になりやす」
この値段で映画なら絶対見ないだろうが、ペンギンというのは映画のタイトルでもこの映画館の事を示しているのではない。飯の注文だ。その内容はまでは分からないが、ルールならネットで知っている。ネット情報だけで初めてここに来ただけに中々に興奮してしまっていた。
私は財布から千円札を二枚取り出し、爺の目の前に差し出した。その時案の定。高杉が後ろから文句を言いはじめる。
「無料じゃないのか!」
「条件付きで無料だ」
「何だよ条件って」
「ただ出てきた料理を全て食べつくせばいいだけだ。そうすれば無料になるだけでなく、逆に二千円もらえる。合計四千円が帰ってくるんだ」
私は以前からここに来たかった。ネットで都市伝説を漁っていた時、特に目を引いたのがこの映画館の噂であった。
受付で「ペンギン」を頼むと、ある特別な料理を食べる事が出来る。さらに食べきる事が出来たら賞金二千円と、「賞品」が貰えるらしい。
その辺の定食屋とかラーメン屋でもやっていそうな話が、わざわざ都市伝説として載っていたのだ。これは何かあると私の勘がささやく。
賞品の内容と料理が何なのか、ネットにのっていないあたり胡散臭い噂ではあったが、地元であった事と、高杉に二千円を貸していた事が重なり、探しに行く決意をした。ご丁寧に地図まであったのだが、食べ切れた者はいたのだろうか? いたのだから噂が立ったのだろうが。
高杉よ。今日はお前のその太った体を利用させてもらおう。私は自分を仏だと思わないが、無料で飯が食える場所を紹介し、さらに二千円を私に返す機会まで与えるとは、善人ではないか。それと賞品の件に関しては高杉に伝えず私が貰う。
無料の次は二千円の賞金という、聞こえの良いおいしい餌につられ、高杉は財布から最後の千円札を二枚、爺に差し出した。
「ありがとうございやす。ではこちらへ……」
爺は受付から出ると、シアター3の扉の前で「この中でございやす」と、頭を下げた。緊張しながらも高杉と共に扉の前まで移動し、一緒に扉を開けた。
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