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人生はその人が責任持って負うもの。他人は我々の選択についてとやかくは言えないけれど、彼の正妻に悪い、申し訳ない、と思うだけなら。
いっしょに不幸ぶるのは、欺瞞なのだ……。
「ここだよ」
じゃ、僕はここで、と武が去り、彼女は病室前に残された。
病室は二人部屋で、かかる札には慎の名前があるだけ。ひとり部屋とかわらない、隣が空いているのはありがたいことだ。彼と込み入った話をじっくりできるから。
茉莉花はドアを小さくノックをする。
「どうぞ」と言う答えを待たずに中に入った
ベッドに横たわる慎の顔はゆでだこのように真っ赤だ。
茉莉花を見て、安堵の表情を浮かべて目を閉じた。
熱が高いのね、かわいそうに。病人に頼りにされる顔をされたら、何を置いても守りたくなるではないか。
「お加減は、どう」
「あまり良くない……」
目をつぶって慎は答えた。
「慎一郎は来させるな、移すといけない」
「わかっています。……私はいいの?」
「君が倒れる頃には私が治っているさ」
軽く笑って、彼女は言った。
「ねえ。今ね、武先生にね、たくさんお説教されてしまったわ」
「武君が?」
「ええ。何をフラフラしているんだ、君たちは、って」
「……ああ」
慎も苦笑する。
「いいんだ、言わせておきなさい」
「ねえ、慎さん」
「何だい」
「私ね、あなたと結婚するわ」
慎は瞬きもせず、茉莉花を見つめる。
「そう。あなたのお嫁さんになる。あなたが元気になって。政さんが結婚したら。お嫁さんに、して下さる?」
「――ああ。喜んで」
慎は熱で火照る手で彼女の手を取った。お互いの左薬指に指輪はない。本来あるべきものを愛おしむように、慎は彼女の手をなでた。
「あなたが好きな、そう、ぬか漬けもイヤと言うほど漬けてあげるわ。もう離れない、絶対」
彼は頷く。
「やっと、君に『うん』と言わせた」
「本当ね」
茉莉花は破顔した。
「ふたりともひどい人間だから。お似合いの夫婦になれるわ、そう思わない?」
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