第1章

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 同じく、ぎこちない東雲に、和弥がエスコートされると、まるで本当のカップルのように見えた。ショーだからと、キスを強要されると、その瞬間、フラッシュの嵐になっていた。震える花嫁の睫と、しっかりと腰を支える新郎の姿、そして、和弥が流々の声援を聞き、咲くように微笑んだ瞬間は、奇跡のように美しかった。 「ウソみたいに、綺麗だ」  東雲が思わず呟き、聞こえた和弥は真っ赤になってしまった。  アルバイト料を貰うと、和弥は逃げるようにアパートに戻った。明香利も流々も、その後に招待されたパーティーに出席したが、和弥はそんな気分にならなかった。論文のせいもあるが、化粧されてドレスを着せられ、慣れない事をしたせいかクタクタになっていた。  眠っていた和弥の部屋の窓に、小石が数粒当てられた。夜中に、こっそりと明香利が和弥のアパートの下までやってきた。 「和弥、スケジュールが一杯なの。明日、早朝に、外宇宙に戻る。怪我が軽くて良かった。楽しそうで良かった。会えて良かった」  夜の僅かな光でも、輝くばかりに明香利は綺麗だった。その努力を知っているからこそ、和弥は明香利が好きだった。 「俺も、会えて良かった。幸せを貰った、もっと頑張れる気がする」  短い会話だったが、それで今は十分だった。  明香利が出航し、燃料が満タンになったら出発しようとしていた和弥に、不吉なニュースが飛び込んできた。和弥が乗る筈だった、宇宙船が事故になっていた。明香利の誘いで乗船しなかったが、乗っていたら、行方不明になっていたのかもしれない。  和弥が出航する頃になると、事故は更に詳しくニュースで流れていた。宇宙船は、途中の星で積んだ荷物が爆発し、貨物室から出火。運悪く、食事の準備の時間で、貨物室の中の貯蔵庫から食料を取り出している最中だった。規定では、一回一回ドアの開閉をしなくてはならないが、手間も時間もかかるので、シャッターを手動に切り替え、開けっ放しで作業していた。
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