第1章

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 作業員が家事で逃げ出すと、シャッターは手動だった為に閉まらず、隣の部屋へ火は移った。隣の部屋に、又運悪く、シャッター設備も防火設備もない、旧式の階段が残されていた。昔、その場所に居酒屋のような店舗があったので、客室から降りられるようになっていたのだ。そこで、火は階段を登り客室に到達してしまった。乗客は状況が掴めず逃げ遅れ、先に流れた煙で視界を遮られ、一酸化炭素中毒で倒れた。緊急救命ボートは全て宇宙船に残されていた。誰も、そこまで緊急になるとは想像しなかったのだ。  火災の連絡が入ってから二時間後、宇宙船は行方不明になった。そして、六時間後、全乗員の絶望視のニュースに変わった。  三、ハウス  中央学園都市へと向かい、空港を飛び立った和弥に、瀬戸内から通信が入った。瀬戸内の姿が正面のスクリーンに映る。瀬戸内は、何日か風呂にも入っていないようなボロボロの疲れた姿だった。 「二人とも、無事でしたか」  瀬戸内は、のんびりとした笑顔を浮かべていたが、瀬戸内の背後の映像は緊迫した人々が走り回り、時折、何か指示が飛びかっていた。 「はい。中央学園都市へと向かっていますが、何かありましたか?」  東雲が、正面のスクリーンに向かって応答する。 「宇宙船の事故がありまして、中には生存者がいませんでした。君たち、乗船名簿に載っていましたよ」  瀬戸内の笑顔が消えると、とても怖い。もしかしたら、爆発とニュースで言っていたので、テロリストの疑いでも掛かっているのかもしれない。 「乗船は、急遽キャンセルしまして、アルバイトをしていました。自分で操縦した方が、時間ができますので。燃料費を稼いで、再び、出発しています」  和弥は、何となく言い訳していた。 「いいや、犯人は割り出ししたのですが。それが、君たちの論文を燃やすためだったと、供述しているのですよ」  和弥は、東雲の顔を見た。東雲は、アパートを燃やされている。東雲は、まさか犯人は同一人物かと、身を乗り出して瀬戸内に問いかけようとしていた。 「きっと、東雲君の考えている通りです。犯人の少年は、東雲君のアパートを燃やし、学校を退学になりました。それでも、東雲君が論文を発表するので、また燃やそうと思ったそうです。荷物だけ燃やすつもりだったと供述していますが、ノイローゼですね」
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