第1章

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 瀬戸内の説明によると、宇宙船に荷物を載せ、爆発させたらしい。大事故になってしまい、本人は精神錯乱を起こして入院していた。論文の資料を燃やしたかっただけだったと、犯人の少年は供述しているらしい。  論文を燃やす、その行為のために、何人の関係のない人間が亡くなってしまったのだろう。和弥は、画像の瀬戸内を見上げていた。 「ニュースでは、ここまで発表されません。ただ、テロの仕業と流れます。テロが狙った荷物は、高重力場の予測システム。これは、その荷物が載る予定だったと、マスコミにバレてしまっているので、消せません」  人を助ける為のシステムで、人が死んでしまうなんて、人間の怖さがそこにあった。 「君たちの名前は発表させません。未成年ですし、それに、何かしたというわけでもありませんしね」  瀬戸内の通信が切れると、和弥と東雲の間の会話が消えた。  中央学園都市に到着すると、あらかじめ連絡しておいた大沢と森下が待っていた。論文発表までの時間が短い上に、和弥と東雲が抱えてしまった問題が、これから大きくなりそうな気配があった。大沢も森下も、高重力場には全く興味がないが、生命に関しては面白いものを発見したと報告があった。  そもそも全ての生命体が、独自の波長を持っていて、高重力場の事故により、その波長が激しく乱れるのだそうだ。何故、進化するのかではなくて、生命は波長の乱れを正常に直そうとして、結果、何かを増長し、何かを減退させるような乱れのまま、止まってしまう。  カプスではその現象が、かなり局部的に現れる。それは一人の人間にだけ、もしくは一軒の家にだけ。そして、多種多様な人間、生命体の存在が確認された。大沢も森下も、ペガサス種が既に馬と分類出来ないように、カプスの一部の人間も、既に人間に分類できないと結論を出していた。  ただそれは、余りに危険すぎる結論の為、相談した教授と共に、ならば人間の枠を超えてしまった人間をどう分類するのか? と、議論になっていた。簡単に言うと、新人類なのか、宇宙人なのかの議論だそうだ。  説明を受けた和弥は、内容を理解するのに頭が混乱しそうだった。要約だけ理解したが、大沢も森下、当然の如く専門用語を連発するので、訳すための辞書とパソコンが必要だった。大沢と森下と、空港から学校まで歩きながら論文の話をしていたが、途中、東雲は誰かに呼ばれて、来た車に乗って行った。
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