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和弥が久し振りに寮に戻ると、アパートを燃やされたまま、部屋を借りていなかった東雲が、先に着いていて寮の予約をしていた。
準備のいい東雲にしては珍しく、寮の部屋に空きはなかった。
「空きが出るまで、同室でよろしく」
不機嫌な東雲が、和弥の部屋に荷物を持って現れた。中央学園都市は、宇宙でトップ争いをする者が集まる学校なので、どちらかというと協調性がない。一部屋は広く、同室も可能だったが、皆一人で生活していた。
「ベッドが無いよ」
部屋の備品は、基本的には学校の貸し出しになっていた。長く生活する者は、自分で気に入ったものを購入する者も多い。
「貸し出しを希望してきた」
部屋にはシャワーとトイレも付いていたが、和弥は、大浴場でのんびりする事の方が多かった。
「論文の発表の予定は、予約できたの?」
東雲は、自分の部屋の事は忘れていたが、論文についてはこまめに動き、あちこちの申し込みや機材の貸し出しに抜かりはなかった。
「予約出来た。問題は、事故の事で、警察に呼ばれたよ。俺だって被害者だけどな。どうしてそこまで恨むのか? ってな。俺も知りたい」
東雲はアパートを燃やされているが、何故、そんなに恨まれているのかは、分からない。
部屋のドアがノックされ、運搬員が大きな荷物を運んできた。カバーを外すと、中からバラバラのベッドらしきもの出し去ってゆく。レンタル料金には組み立て作業が含まれていない。和弥と東雲は、運ばれてきたベッドを組み立てると、同じくレンタルした布団をセットした。手際良く行う東雲は、割と何でも出来る人間だった。
「警官の一人が、中央学園都市に居た事があって、その人が、勉強だけが取柄の人間をこの学校は容赦なく切り捨てる。切捨てられた人間は、激しく何かを憎むのだと説明してくれた」
たまたま犯人は、東雲を恨んだのだよという慰めなのかもしれない。けれども、間違いで死んでしまった人はどうなるのだ。逆恨みで、東雲を恨まないでほしいと願うばかりだった。そして、狙われた被害者が生きている場合の、被害者の辛さも多大だ。
「中央学園都市の最先端の学問を体験したいと、夢を持ってきたけれども。現実ってのは、残酷なもんだな」
ベッドに横になった東雲は、疲れているようだった。
「でも、俺の夢。高重力場の予測は、現実になった」
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