第1章

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 東雲に言われたくないという連中も多いだろうが、競争社会というのは根性も悪くなるのかもしれない。車の道と歩き専用の道は、全く違うルートなので、和弥も東雲も慣れない道をひたすら歩いた。途中に、ドリンクスタンドがあった。それはジョギングしている者のため、飲み物を提供する施設だった。ジョギングはしていないが、荷物を持っての移動だったので、すっかり喉が渇いていた。学園内は、学生か学校関係者しかいないので、金銭の取引が殆どない。学生証がクレジットカードの役目も兼ねていた。  警備員に挨拶すると、スポーツドリンクに手を伸ばし一気に飲み干した。中央のスクリーンには、講義の変更情報が流れていたが、画面が切り替わり本日の論文発表のコーナーが始まった。審査保留と聞いていたので、聞き流していた和弥の耳に、メンバーの名前と現在一位のアナウンスが響いた。 「え?」  聞き返そうにも、アナウンスは戻らない。 「東雲? 今、順位発表されなかった?」  東雲は、アナウンスを全く聞いていなかった。 「俺達の論文は、審査保留だろ」  しかし、論文の順位は発表されていた。それは、寮の部屋の前に、天羽が真っ青な顔をして立っていたので判明した。 「和弥。メンバーに入れて欲しい」  和弥を裏切っておきながら、天羽は又頼み事にきていた。和弥が、無視して部屋に入ろうとすると、天羽は床にへたり込んだ。 「このままだと、俺は学校に残れない。頼む。学校に残れなかったら、親父に家を継ぐ資格なしと言われる。内宇宙では、最低三年在籍しないと、中央学園都市に居たとは言えない。在籍五年経たないと、出身と書けない……」  和弥は、無視して部屋に入った。 「親父は、中央学園都市出身なんだ。同じ中央学園都市出身にならないと、家族でもないと言われている」  東雲は、ドアを閉めようとして、天羽に腕を掴まれた。その手を、東雲は激しく振りほどいた。 「自分の都合だけか? 和弥は、お前に資料を盗まれた。お前のせいで、在籍出来なくなるかもしれなくなった。どれだけの思いで、又、論文に取り掛かったか少しは考えろ」  東雲がきつく言うと、天羽は声を上げて泣き出した。東雲は、天羽の前でドアを激しく閉めた。 「その資料だって。資料は岡田君のものだね、と、教授に指摘されて、資料分の点数を引かれた。お前達が伝えたのか? 和弥か? 誰だよ……」
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