第1章

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 研究者というのは、運用には向いていないのは確かだが、東雲は作った本人なのだから、稼動の際には係わってもいい筈だった。しかし、名目テロに狙われたソフト、そしてテロに襲われないように、実名を隠した学生では参画できない。安全を取るか、名声を取るかで、何故か学校の方針により参画不可を取ってしまった。 「東雲。寄り道して、買い物していくか? 流々と奈々子さんにお土産も買いたい。来年の論文は、新素材の開発及び実用例。クッキーを焼いてみて、食べる酸素を思いついた」  東雲は暫し呆れたが、ノートを取り出すと成分表を書いてみせた。 「味は保障できない」  おそらくは、不味い感じのする物質になりそうだった。 「カプスで面白い物質も発見した。調べてみたら、登録が無かったので、命名して正規に登録した。流々石。急激に気圧を上げると熱を出し、急激に気圧を下げると爆発する。冷却すると再び結晶化する。いい燃料になりそうだろ?」  和弥は、データを取り出し東雲に見せた。東雲は暫しデータを凝視していたが、ペンを取り出すと何か数式を書いた。 「燃料に出来そうだ」  決して製品の開発チームでは無いが、何か考えていると、気が安らいだ。 「じゃ。材料とお土産を買いに行きますか」  中央学園都市は、名前は中央と付いているが、物を生産する場所からも、都市からも離れていた。一番近い都市でも、宇宙船の移動で丸一日かかる。学生は、そのために生協で買い物の全てを済ませていたが、生協ではあるというだけで、選ぶという事はできない。取り寄せを行うと、中央学園都市は辺鄙とされ運送料金の他に、離星料金まで取られてしまう。  中央学園都市のいい所は、車を持ち込むと登録料金や、駐車料金が取られるが、宇宙船には何もない。  宇宙船に荷物の積み込みが完了し、和弥は管制官の指示を待っていた。空港から飛び立とうというその時、和弥と東雲に電話がかかってきた。相手は奈々子だった。 「流々が、一人で、中央学園都市を見学して来ると書置きして、定期便に乗ってしまったのよ」  定期便の事故が相次ぐ形になっていたので、奈々子はひどく心配していた。 「困りましたね。俺も、東雲も帰る所なんですよ。それに、中央学園都市は登録のない人物が降りられません」
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