第1章

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 宇宙船の空港使用料金が無いからといって、セキュリティが甘いという事はない。検疫から持ち物まで、厳しく取り締まりがある。和弥の機材も、論文の発表に使用しないものは、全て封印されていた。  出発時間になり、管制官からの指示がアナウンスされてきた。東雲は、和弥の携帯電話を引き受けた。 「東雲です。流々さんに連絡を取って。手前の星で降りていただきます。俺達もその星に行き、乗せて帰ります」  流々の現在地点は分からないが、他に方法が見付からなかった。 「よろしくね」  奈々子は元気良く電話を切った。東雲が流々に電話を掛けると、宇宙船はまだグリーンを飛び立ったばかりだった。和弥が買い物をしようとしている星までは、定期瓶だと三日かかる。東雲は、流々に途中の星で降りるようにお願いをした。  和弥の宇宙船の運転技術は、全宇宙で五本指に入ると言われている、貴樹の技術を引き継いでいた。貴樹は、未開拓の航路を積極的に乗り回し、大量の定期航路を作り出した。作った航路の長さは、宇宙一かもしれない。壊した宇宙船の数も多いが、それだけ危険な場所も旅していた。  和弥の離陸は安定していて、定期航路までの最短距離を確実に進む。離陸が難しいとされているのは、離陸の際に大量の燃料を使用するため、一歩間違えば爆発になる危険性を孕んでいる為だった。 「安全な燃料というのも、外宇宙の悲願の一つだな……」  爆発したら、宇宙船での生存率はゼロに近い。宇宙空間での事故でも、救命船に運よく乗ったとしても、救命船の装置では一週間は彷徨えない。酸素の問題もあれば、温度の問題もある。宇宙が危険な場所であり、防御の方法がないせいもある。  東雲は、副操縦席で雑誌を読みながら、コーヒーを飲んでいた。和弥も、宇宙船が定期航路に乗ったので、一息ついて飲み物に手を出した。操縦席の横には、小さなテーブルもあり、ポットとパンが置かれていた。 「宇宙船の中で、あまり料理しないのは、何故だろうな」  長距離の移動でも、宇宙船中では、冷凍を温めるくらいの料理しかない。ゴミの処理問題と、最小の荷物しか持ち込まないという昔からの習慣なのかもしれない。流々が、宇宙船の中で料理していた事を思い出し、和弥は笑顔になっていた。そういうものだという概念がなければ、何の疑問もなく正しい事をするのかもしれない。
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