第1章

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「そうだな。今の最新のゴミ処理機なら、宇宙船の中でも、生ゴミも肉も何でも処理可能なのにな」  東雲は、雑誌の角に、宇宙船の中に森があり畑がある図を描いた。離着陸には向かないが、長距離移動にはいいかもしれない。論理的に可能でも、やはり今でも宇宙船の燃料費は高いのだ。無駄な物を乗せる余裕はなかなか無い。 「開発は、安く安全な燃料だな」  東雲は、雑誌を横に置くと、ノートに図式を書き出した。 「和弥。流々石の詳細なデータ。それと、各種金属の特性及び耐久性」  東雲は、データを読むと暫し腕を組んで固まった。 「和弥。流々石はすごい発見かもしれないぞ、カプスの埋蔵量はどれだけあるのだろうな」  和弥は、カプスでの流々石の埋蔵量を試算してみた。 「流々石の凄い所は、有り得ないような理論だけども、熱を放出しても質量の変化がない所だ。永遠燃料の開発が出来るかもしれない」  東雲は、完全に自分の世界に入ってしまった。和弥は、理論は東雲に任せて、宇宙船の設計図をスクリーンに写していた。改造もいいが、とりあえず操縦室に三人は入れるようにしたい。それは、流々を意識した席だった。  和弥は、中央学園都市出身だとか、教授だとかの肩書きに拘りは無い。世話になった両親にお礼がしたいし、貴樹の技能に少しでも近づきたい。宇宙船を操縦していると、和弥は原点に帰る気がした。  着陸予定の星に宇宙船が近づくと、星は夜になっていた。宇宙空間の暗さのまま、光が船を誘導する。光に導かれて着陸すると、地上はずっしりと重かった。それは、無重力から重力圏に戻って来たという証なのだが、重力が強いと暫し動く気力が無くなる。 「俺達も宇宙人だったよ。俺達の筋肉は無重力でも減少しない」  東雲は、何かを読み上げるように呟いた。 「外宇宙の人間は全てか?」  和弥は、シートベルトを外すと、身分証明書を手に取った。 「約七割」  外宇宙の人間は、確実に進化していた。 「それじゃ。降りるか。東雲」  宇宙船を降りると、ひんやりとした空気に包まれた。見上げると、星空がくっきり見えていた。あの星の中を飛んできたというのが、和弥は、時折不思議な気分になる。家に戻る時、特に生まれた星のジジルに帰った時は、宇宙は遠く感じた。家の窓から見た星は暗い中でポツンと光り孤独に見え、とても行きたい場所ではないと思えた。
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