第6章 “帰還“

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村長は怒りで肩を震わせ、鋭く祐文を睨み付けるが当の祐文は村長の怒りも人々の嘆きも一切意に介する事なく、ゾッとするぐらい平坦な声で言葉を続ける。 「 “アポルオン“ …ある種の昆虫の一群が様々な要因により群れの中の個体数が爆発的に増加する異常現象…これだけなら特に人間に直接的な害をもたらす事は無いが、この異常に増殖した大群の最大の特徴は群れをなして肥沃な大地や人間の手によって開墾された豊かな大地を狙って飛来し、そこに実るありとあらゆる植物や穀物・果物を喰い尽くし、食べる物が無くなれば更に実りある豊かな大地を狙って飛び去ってゆく…だがこの現象の本当に恐ろしい所は実りを喰い尽くすのと並行して生殖・産卵を行う事により一年ごとに連続してこの現象が続く事にある…」 「テメェ…卑劣な手を使いやがって!!」 祐文の言動にいよいよ堪忍袋の緒が切れた集落の若衆のリーダーが、足下に落ちていた拳大の大きさはある石を祐文に思いきり投げつける。 -ガッ! 祐文はあえてその石を頭で受けとめ額から派手に血を流す。 この光景を見た人々は祐文があの程度の投石も避ける事が出来無い程に弱っていると勘違いして一気に止めを刺そう祐文達に詰め寄ろうした その時-- キチキチキチキチ…ギチギチギチッ!! 昆虫の大群の内の一群が一際強烈な羽音を鳴らして一斉にその場から飛び立ち、集落の近くにある幾つかの田畑に濁流の様に押し寄せ、ものの数分で田畑に実っていた果実や穀物、その他の植物を跡形も残らず喰い尽くしてしまう。 「あああっオレ達の畑が…」 「精魂込めて手入れしてやっと実ったおいらの果物達が…」 「なにもかも全部、草の一本も残らず喰い尽くされた…もうお終ぇだ」 昆虫の大群によって自分達が耕した田畑の実りを全て喰い尽くされた集落の住人達は嘆き、悲しみのどん底に叩き落とされる。
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