第6章 “帰還“

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「…今 見て頂いて通り私か佐々野君に貴方達が何らかの危害を加えた場合、 “アポルオン“ が自動的に発動し順々にこの周辺の田畑を襲撃します。そしてもし仮に私達が貴方達に殺された場合は…ここに集った全ての昆虫の群れが一斉に見境なく襲撃を仕掛けます。それがどういう結果をもたらすのかは貴方達には容易に想像がつくと思いますが…どうします?」 祐文は精魂込めて耕し、苦労に苦労を重ねやっと実った農作物をものの数分で全て昆虫に喰い尽くされて打ちのめされている集落の人々に止めを刺すようにそう告げる。 「-クロイ・ヒロフミ。儂も長いこと生きてきて色々な物事や人物に巡り合うたが…貴様のような卑劣で陰惨、苛烈で容赦の無い人間に出くわしたのは初めてじゃ」 村長は疲れきった様子でそう言葉を吐き出す。 「…我等の負けじゃ。皆、手にしている得物を捨て包囲を解け」 「村長!それでは我々の怒りと嘆きはっ!!」 「我等の溜飲を下げる為に皆に飢え死にせよと言うのか?」 「まだ食糧の備蓄はあります当分の間は何とかなります」 「その備蓄もこの間の “愚連隊“ の襲撃でほとんど失った事を忘れたのか?この上今季の収穫が全く無くなれば我等は三ヶ月も待たず全員 餓死するしかない…それにあの昆虫共が産み落とした卵は来年には孵化し幼虫から成虫に育ち大群となり再び “アポルオン“ になって、この周辺のみならず国中に飛び散り猛威を振るうだろう。そうなれば最悪 国自体が滅びる事になるやも知れぬ…そして我等はその原因を作った愚者として歴史に汚名を刻む事になるだろうよ…」 「くそっ…畜生めっ!」 村長に諭された若衆のリーダーは目尻に涙を溜めつつ、悔しさをぶつけるように手にした手斧を地面に叩きつける。その事がきっかけになったのか祐文達を包囲していた人々も手にした得物を捨て、囲いを解き祐文達に道を開ける。
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