第4章 ”闇“

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スクリーンに例の集合住宅の廃墟が映し出される。その内部を汗だくになり荒い息づかいで逃げ回る佐々野斗唯と、その様子を面白半分に眺めながら手にしたエアガンやガスガンを撃ちながらまるで狩りでも楽しむ様子で彼を追い詰めてゆくAとBとC。 やがて袋小路である廃墟の一室に追い詰められ、あの凶悪なモデルガンの餌食になるのだなぁと諦めた時だった…自分の周囲の空間が突然強烈に発光しそれと同時に頭の中に直接かたりかけてきた“あの声”を聞いた。 ――もう大丈夫。何も心配しなくていい、貴方には私がついているのだから―― 『ありきたりな言葉だった。けど何故かは解らないけど涙が出るくらい嬉しかった』 佐々野少年はそう思い返す。ありきたりな言葉ではあったが、言葉を綴ったその “声” はとても温かく慈愛に満ちた声で、聞く者に大いなる安らぎと平穏を与えてくれる…そんな “声” であったと確信した。 そして “声” の力による影響だろうか何故だかよく解らなかったが、物心ついた頃より今まで一度も自分には無いと思い込んでいた “勇気” とか “力” とかが全身に満ち溢れ迸るのを自覚し、それらを持って初めてA達三人と真正面から対峙し…結果としてAを半殺しにして再起不能に追い込んでしまう。 『・・・・少しやり過ぎたとは思う。けど僕が今まで連中からやられた事の数々に比べればAがこれくらいの報いを受けるのは当然だろうっ!』 佐々野少年がかなり興奮してそう叫ぶと、スクリーンの中の佐々野斗唯はゾッとするぐらい薄ら寒い目でかろうじて人間の形を保っている半死半生のAを見下しケタケタと笑っていた。 『そうしている内にまたあの美しく温かかい声が聞こえてきたんだ』 ――佐々野斗唯さん。あなたの力で無力な私を、そして私が愛する人々を守って欲しい…どうかそのお力をお貸し下さいまし―― 『こうして僕は、その声の主 “フラウワー” という名の女神に導かれ…異世界に “勇者” として招かれたんだ』
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