第4章 ”闇“

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佐々野少年が怒りに満ちた声でそう呟くと、スクリーンにその時の光景が映し出される。 襲撃を受ける幾つかの街や村、燃え盛る家々、恐怖のあまり絶叫しながら逃げ惑う人々、勇者の圧倒的な力によって打ち倒され大地に転がる無数の騎士・戦士・兵士の骸。 “勇者の力” のおこぼれを預かろうと集まった悪党の集団 “愚連隊” による金品や食料それに住人そのものの略奪。若い女性達は愚連隊の男共の性的欲求を満たす為に連れ去られ凌辱され散々弄ばれた挙句に捨てられるか売春窟に売り飛ばされ。若い男達は労働力として、あるいは特殊な性癖の持ち主の奴隷として売り捌かれいった… その凄惨な光景を眺めながらスクリーンの中の佐々野斗唯はその光景がよほど可笑しくてたまらないのか壊れたようにゲラゲラと笑い続けていた。 『痛快な気分だった。Aを壊した時と同じくらい…いやそれ以上にたまらない気分だった』 [自分を小馬鹿にした連中、騙し裏切った連中の顔が恐怖と苦痛に歪んでいくのを見るのは最高だった。勇者の力を思うままに振るい、自分に抵抗してくる奴らを羽虫を潰すように叩きのめし這いつくばらせるのは最高に快感で自分に不可能な事など一つもない “万能の存在” であると実感出来ていたでも…] 『でもそんな僕の前にあの男が現れた』 佐々野少年が怯えた口調でそう呟くとスクリーンに、特にこれといって特徴の無い鉢金を巻き、腰に短剣を下げた現地風の男が現れる。 [少年課の刑事だと名乗ったあの男…アイツのせいで僕はまた全てを失った] スクリーンに “勇者の力” を持つ “万能の存在” である自分がほぼ丸腰の相手に素手で無残に打ち倒され、ものの数分間で全てを失う光景が映し出され…それが終わると再び書き割りの映画館が消えて佐々野少年は再び何も無い暗闇の世界に放り出される。
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