第5章 “変貌”

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「身体中を殴られ、蹴られ、あっという間に血塗れになってあまりの痛みで声さえ上げられなかった。ぼんやりとだがこのまま殺されるのだろうと思った」 実際 あのままであったなら祐文は確実に殺されていたが…偶然にも以前から薬物乱用と暴力事件で何度も逮捕されている男のここ最近の不審な動向を監視していた刑事達の強引な介入によって祐文は間一髪の所で一命を取り留めるが…友人の方はもうどうしようも無く手遅れだった。 「普通ならあの時 自分が生き残った事を幸運に思い感謝すべきなんだろうが…あの家での一件以来、オレの中身・根っ子と言える部分は壊れてしまったみたいで、オレだけが生き残った事に罪悪感を抱き、アイツを助けられなかった弱くて無力な自分がどうしても許せなかった」 事件からしばらく経って男から受けた傷が治った後、祐文は直ぐに叔父が稽古場として使っている古い道場で “那珂流“ という、なんでも幕末から明治維新の頃に “荒木流拳法“ という古流武術から分派・独立したと言われている黒井の家に代々伝わる武術を叔父から学び始める。 以降、二十数年間それこそ雨の日も雪の日も、一日も稽古を欠かす事なく続け一つ間違えば命を落としかねない危険な修行も成し遂げ研鑽を続け…結果として強靭な肉体と精神を体得し、半グレやチンピラなどは言うに及ばずプロの格闘家や武道家・軍人崩れですらブチのめし、警備課・機動隊に所属していた頃は一人で武装した反社会的活動家30人を、全員 素手で叩きのめして鎮圧する程に強くなっていたが… 「オレの中から、あの時アイツを守れず助けられず死なせた無力さが消える事は決して無かった」
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