第5章 “変貌”

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「…奴さん、どうしても私を殺したいらしい」 全身に負った傷により身体中が悲鳴を上げる中、その全ての痛みをしっかりと受け止めつつ祐文はゆっくりと起き上がって怪物と対峙しそう呟く。 『つっ!そんなボロボロの状態であの怪物と戦う気ですか!?無謀すぎる…せめて一旦下がって怪我の治療をしてからでもっ!』 「それでは駄目だ。そんなに時間を掛けれていたら佐々野君は本当に身も心も怪物に成り果ててしまう。それでは意味が無い、佐々野君の心と体は必ず彼を玩具の如く弄んでいる神から取り返す…貴方は怪我の治癒を少しでもいいから進めてくれ、痛みの方は私自身が何とかする」 祐文の怪我を心配し、治療に専念すべきだと言うギシェムにそう返した祐文は傷の痛みとそれが原因で発した異常な熱さで乱れた呼吸パターンを大量の息をお腹で膨らませつつ無理矢理 吐き出す事で逆に正常な呼吸パターンに戻し再度 気合いを入れ直し怪物と対峙する。 (こうして改めて向き合って見てみると相手がいかに巨大な体躯をしているのかが解る…そしてその巨体を活かした攻撃は恐るべき破壊力がある…がしかしその巨体故に細やかな動作が苦手で、理性が吹き飛んでいる為に行動パターンは単純。 ならばこちらにも十分に勝ち目がある だがそれはオレ自身の身体が万全の状態である事が最大の前提条件になるのだが…) 「■■■■■■■―!」 祐文がそんな事を考えている間にも、怪物は右後脚の負傷など一切意に介する事なく例の不快な咆哮を上げ突進を始め祐文を轢殺しようとする。 「…待った無しか、なら “アレ“ を使うしかなさそうだ」 そう呟いた祐文はまず今 自分の身体で特に痛みを感じる箇所、両腕の骨・尺骨及びとう骨、そして捻挫した右足の踝に暖かい温水が詰まった水袋が巻き付き圧迫していると脳内で強く強くイメージし、それにより痛みを伝える神経を圧覚して痛みの信号を脳にまで届かないようにして自身の感覚を騙し一時的に痛覚を消す。 この作業を0コンマ数秒足らずの内に終えた祐文は次の瞬間 凄まじい咆哮を上げ猛烈な勢いで突進してくる怪物に対してまるで、顔見知りの人間に挨拶するかの様に気軽にかつ緩慢な動作で間合いを詰めてゆく。
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