零れ"譚" 転落事"娘"(てんらくじ"こ")

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病院のベッドで目を覚まして、看護師から色々な話を聞いたなら、思っていた以上に仕組んだ事が上手く行きすぎいて、私は正直少しだけ驚いていました。 「……そう、なんですか、少し、休みます」 顔色は悪いけれど、落ち着いた患者である私の表情に看護師も安心したようで、眠るふりをしたのなら病室を出ていったのを確認し、密かに病室を抜け出します。 自分で毒を含んだのと、お腹にいたらしい赤ん坊が流れた為に、怠い身体の脚を少し引きずる様にして、病院の屋上に向かいました。 屋上に繋がる扉を開いたと同時に、とても強い風が私の髪を広げ、警察の車が、大きな病院の門を出ていくところが見えます。 あの車の中に私の婚約者だった人が乗っているのかなと、考えました。 「本当に、良い人だったなぁ」 わざと過去形にして口にしました。 だって、彼には死んで―――表向きには裁かれて、やがて死刑になってもらわないと困りますから。 「毒の量を加減したにしても、生き残ったのは、私だもの。死人に口無しよね、生きている人間に都合の良いように話を進めないと。ねえ、父さん、母さん、姉さん」 屋上の端の手摺の所にやってきて、身体を支えるようにして寄りかかり、私はそう口にしました。 「ちゃんと、」 姉と両親が、私にだけ黙ってしていた事を知った時は、怒りで血の気が引くという大件を産まれて初めてしました。 正直に言って、いつも控え目でいて、おしとやかに振る舞って、それでいて、勉強が出来て両親に可愛がられる姉が妬ましく思っていました。 似てないね、なんて言われるけれど、とんでもありません。 姉は大人しさの象徴のように結った三つ編みにした髪をほどき、知的さを主張する銀縁の眼鏡を外したのなら、そこに華やかさ造形している化粧を取り除いた、私とそっくりな顔を持った人になります。 まあ、姉妹ですから当たり前と言えば、当たり前なのですけれどもね。 そして私が知っているように、姉さん(あの女)もよくわかっていました。 『これで私が華やかに振る舞ったら、―――ちゃんの居場所がなくなっちゃうでしょう?』 そんな控え目の華やかさはない品良い微笑みで、私の口を塞ぎます。 父親の立場的に、"賢く控えめな娘"と"明るくて外交的な娘"の役割で、私は2番目の方となりました。 頭の方も、悔しいけれど姉に敵いません。 ただ、偶然なんだろうけれども華やかを演じる事で、姉が悔しがる瞬間を見つけもしました。 それは社交場で、近寄りがたい雰囲気の姉より、どうしても私の方が話しかけやすい事もあって、思春期と呼ばれる時期では所謂良い眼を見ます。
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