零れ"譚" 転落事"娘"(てんらくじ"こ")

19/20
前へ
/150ページ
次へ
背の高い"般若"が静かに頷きます。 「私は、このまま、この場所にいても、構いませんよね」 その為に沢山の支度をして、家族の屍すら踏み、乗り越えてきました。 「―――」 般若の面が―――"私"が、無言で見つめています。 「……"般若"の面は、鮮烈にその場所に存在はするが、長く形を留めている事が叶ったことは、これまでない」 唐突にそう仰られて驚きました。 けれど、四ツ葉様が好きで話してくれた、能に出てくる般若の面をつけた"鬼女"は達は皆、祓われ消えてしまう結末を思い出します。 「私は、残って留まるように支度をしましたから。そして、貴方の子どもを育てたいのです」  それだけの為に、私は鬼になりました。 本当は私を除け者にした家族を、この世界から"除け者"にするだけで良かったのですが、似ても似つかないけれど、貴方の血を引いているだけの女の子を育てたい、そう思いも今はしています。 「お前まで潰れる事になる」 眩むような晴天の元で、鬼がそう口にしました。 「親となる役割の者が、。何も、証明する術はないが、。だから入滅後にするという条件で、種だけ残した。それを科学的に、今の時代と世界じゃ、何も立証する方法はないがな」 そう告げて、面を外したなら本当に悲しんでいる、あの時の、"約束を破られ"、失望する声を出している顔があります。 四ツ葉様は"自分が死んでから"と、願っていたし、頼んでもいました。 よく判らない"力"で、運命やら宿命やら、説明が出来ない"秘密"に縛られて、自分の一族になる血筋や家族が、いつも般若の面に(まつろ)うような、人を作り出しているのが、やりきれなかった。 偶然か必然か、娘となる存在は産まれて数年も経たぬ内に、似ても似つかないが彼女を輩出した家族3人は、経緯はどうであれ死んでしまっていました。 「四ツ葉様にとって、家族が潰れてしまうのは辛いことですか?」 この確認には、首を左右に振り八重歯を見せて笑ってくれます。 「俺は、家族がいたかもしれないが、。だから、辛いことはない。 でも、家族はいなくても、私は親友や友達がいるのなら、そうでもない、そんな生き方をしている」 "最期"に、良いことがきけたと思いました。 そして、いい笑顔も見れたと感じます。 「じゃあ、あの娘に、、せめて。 そして、いつか、この世界に四ツ葉様にそっくりな、癖っ毛の八重歯のクソガキが現れたなら、可愛がってやってください」
/150ページ

最初のコメントを投稿しよう!

380人が本棚に入れています
本棚に追加