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背の高い"般若"が静かに頷きます。
「私は、このまま、この場所にいても、構いませんよね」
その為に沢山の支度をして、家族の屍すら踏み、乗り越えてきました。
「―――」
般若の面が―――"私"が、わたしを無言で見つめています。
「……"般若"の面は、鮮烈にその場所に存在はするが、長く形を留めている事が叶ったことは、これまでない」
唐突にそう仰られて驚きました。
けれど、四ツ葉様が好きで話してくれた、能に出てくる般若の面をつけた"鬼女"は達は皆、祓われ消えてしまう結末を思い出します。
「私は、残って留まるように支度をしましたから。そして、貴方の子どもを育てたいのです」
それだけの為に、私は鬼になりました。
本当は私を除け者にした家族を、この世界から"除け者"にするだけで良かったのですが、似ても似つかないけれど、貴方の血を引いているだけの女の子を育てたい、そう思いも今はしています。
「お前まで潰れる事になる」
眩むような晴天の元で、鬼がそう口にしました。
「親となる役割の者が、潰れる。何も、証明する術はないが、これまでも、これからもそういう因縁だ。だから入滅後にするという条件で、種だけ残した。それを科学的に、今の時代と世界じゃ、何も立証する方法はないがな」
そう告げて、面を外したなら本当に悲しんでいる、あの時の、"約束を破られ"、失望する声を出している顔があります。
四ツ葉様は"自分が死んでから"と、願っていたし、頼んでもいました。
よく判らない"力"で、運命やら宿命やら、説明が出来ない"秘密"に縛られて、自分の一族になる血筋や家族が、いつも般若の面に服うような、人を作り出しているのが、やりきれなかった。
偶然か必然か、娘となる存在は産まれて数年も経たぬ内に、似ても似つかないが彼女を輩出した家族3人は、経緯はどうであれ死んでしまっていました。
「四ツ葉様にとって、家族が潰れてしまうのは辛いことですか?」
この確認には、首を左右に振り八重歯を見せて笑ってくれます。
「俺は、家族がいたかもしれないが、記憶に残る前、全部潰れていた。だから、辛いことはない。
でも、家族はいなくても、私は親友や友達がいるのなら、そうでもない、そんな生き方をしている」
"最期"に、良いことがきけたと思いました。
そして、いい笑顔も見れたと感じます。
「じゃあ、あの娘に、親として関わらないで、せめて良い友達が出来るようにお願いします。
そして、いつか、この世界に四ツ葉様にそっくりな、癖っ毛の八重歯のクソガキが現れたなら、可愛がってやってください」
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