第1"羽"  離"魂"届(り"こん"とどけ)

4/6
前へ
/150ページ
次へ
「んー、相手に自分の人生の時間を"委ねて"も良い部分や"付き合ってもいい"と思える覚悟があるからこそ、結婚を決めるのはあると思う。 最近は2人の間に芽生えた命に責任をとるのを理由にして結婚するのも主流みたいだけれど、でも責任取るぐらいでないと、そこまでいけないってのもあるからねえ。 まあ、必要以上に重く考える必要もないけれども」 「また、周りくどい例えを使いますね、けど、やっぱりはそれはあるかも」 相手と共に人生を支え合い責任を取る為に。 「……ほら、じゃあ、責任もって、頑張れ。折角結婚する2人の為にだろう」 良くチョークをふざけて投げていると"噂に聞いていた"長い指を、担任してくれている筈の生徒(自分)に向けながら、唆すようにも、説得するようにも響く声色で先生は口にします。 ―――自殺にしてしまう事でもない。 そう告げられて、女子生徒は自分がつい先程手をかけようとしたフェンスに手を伸ばしたのなら、それは通り抜けてしまいました。 それと同時に自分の死に方を、死んだ後に、"今決めるため"に"此処"に来たのを思い出します。 「―――私、"自殺"じゃないよね。ただ、頑張り切れなかっただけだよね、先生」 "あなたの言う通りに、蔵元先生と結婚すると約束しました、だから頑張ってください" 意識が途切れる前に聞こえた、大好きな人の声が漸く思いだせます。 そして、人が最期まで働いている身体の機能は聴力であるという話を、死を意識した頃に耳に入れたものも思いだし、気が付いたなら苦笑いを浮かべていました。 「大好きな先生が、ずっと迷ってる結婚をするって聞いたらさ、凄く嬉しかったんだけど、一緒に凄く"ホッ"として、そこまで頑張ってた意識が完全に途切れて、気がついたら此処にいたの」 風にはためく紙に記されている離"魂"を認める証人の所ばかり目をやっていたものを、当事者の所に、向けたのならそこには少女の名前が浮かんでいます。 そして、自殺ではなくて、思い出のこの場所に"縛られる"事を目的にやって来た事も思い出していました。 「折角高校1年、学校頑張って、最高に生きているのが楽しくなったの。だから、ここで、最後の入院になるかもしれないから、いっそのこと飛び降りようとした時に、或瀬先生に止めて貰った」 "諦めないでください" 「先天性の遺伝の病気だから、発病したらなす術がないって言ってるのに、或瀬先生、それでも諦めないでって。それなら、きっと最後の方は意識を戻らない状態になってしまうってわかってた。 親はもう発病した時は諦めているから、目を覚まさない状態の私を見たなら、生命維持装置を"必ず先生が切る"という約束で、闘病の為に入院したの。けれど、やっぱり先生に辛い思いさせちゃったなあ」 触れることが出来ないフェンスから手を離して、少女は数ヵ月しか世話にならなかった担任を見つめます。
/150ページ

最初のコメントを投稿しよう!

380人が本棚に入れています
本棚に追加