研修棟

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ガチャっ。 ゆっくりと閉まる扉に押されるように暗い玄関へ、 コツとヒールの音を響かせた。 しんと静まり返った見慣れた暗がりの中、 迷わずスイッチに手を伸ばす。 「っ!」 不意に、その腕を大きな手がぐっと掴み、 驚きに息も止まったままの身体を引き寄せられると、 倒れるように大きなぬくもりに抱きしめられた。 「んっ…」 細身だが筋肉質の逞しい胸にどんっと顔が埋まると、 慣れた香りに包まれて、跳ねた鼓動がとくんと止まる。 息もできないくらいきつく抱きしめられて、 苦しさから身を捩ろうとしたその時、 すぐにほんの少しだけ力が抜けて、 伸びてきた人差し指が顎をくい、と持ち上げた。 廊下の奥から届く夜の灯りでぼんやりわかる眼差しは、 言葉を思いつく隙も与えずに、 柔らかく唇を包んだ。 「ん…。」 優しく押し付けられる薄い唇は、 触れていなかった時間を取り戻すかのように、 やわらかい唇を弄び始めた。 ちゅっ。 暗がりの中、鼓動を早める音が響くと、 「はぁっ…」 漏れる吐息とともに、 どさっと肩からカバンが滑り落ちた。 チャリ。 鍵を握りしめたままの右手に力がこもる。 あぁ、もぉ。 そのまま、軽やかな唇の動きに思考を鈍らせていると、 「んっ。」 唇をなぞり始めた舌先の感覚に身体がびくんと反応した。
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