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ようやく岸の家に入れた俺は、母さんから少しだけ貰ったユリの花を持って岸の部屋に入った。岸はそれに気付き、花瓶を取りに行ってくれたが、待っている間ユリの花粉が俺の鼻を刺激し続けていた。やっぱり俺って花粉症なのか。
「綺麗だね。そういえば澤ちゃんのお母さんユリまた持ってたね。やっぱお花屋さ…」
「お前さ。」
岸の言葉を押し潰すように俺は話を続けさせないように強めに言った。
「何か隠してること、あるんじゃねーの。」
「…ないよ。」
「屋上でさ、お前本当は何て言ったんだよ。別の事言ったんじゃないのか。あのタイミングで俺の事言うのおかしいだろ。」
「俺は澤ちゃんをそう言う目で見てんだよ。」
岸がこちらを見ない。この光景は前にも見た。お前は何故肝心な時に俺を見ないんだ。
「違うな。それじゃない。俺が聞いたのは、それじゃない。」
「言ったら、多分泣くよ。」
「泣かねーよ。」
「言ったら、多分落ち込む。」
「落ち込まねーよ。」
「言ったら、後悔する。」
「後悔な…」
「俺が後悔するの!」
岸は泣いていた。少しびっくりしたが、確かに岸は大粒の涙をその大きな瞳に溢れさせていた。
「後悔はしたくないし、させたくないの。言ったら、絶対責任取るとか、俺がお前の目になるとか、ドラマみたいな台詞澤ちゃん絶対言うもん。それ嫌だ!澤ちゃんには絶対迷惑かけたくない!」
「目ってお前…目に何かあるのか?」
「20歳になったら見えなくなっちゃうの。もしかしたら明日見えなくなるかもしれない。視界がどんどん狭くなってるの!白くなって真っ白になって、そのうち闇になるんだよ!何も見えなくなる。何もできなくなる。そんなやつ、誰が好きになるんだよ。
澤ちゃんみたいないい人、絶対に迷惑かけたくないんだって。澤ちゃんは可愛くて優しくて俺よりもっともっと目のいい子と付き合って、デートたくさんして、結婚して、子供たくさん産んで、最後はこの人でよかったなって人生を送ってほしいの!わかる?これでおしまい!もうおしまい!」
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