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宙がしゃがんで見ているのは、彼の身長の半分ほどある、くまのぬいぐるみだった。
毛足の短いボア地で作られている。
質は良さそうだが、砂に半分埋もれた体は薄汚れ、所々が綻びていた。
「誰のかな?」
「……忘れ、物?」
「うん。ぼく、見たことある気がする……」
ぬいぐるみを抱き上げて、宙が首を傾げると、声がかかった。
「それ、ボクのエトワールぅ」
「え?」
砂場の反対側に子供が立っていた。
唐突に現れた少女に、エリックも驚く。
つんつんとはねた黒い髪と、暗い眼。
造作は整っているのだが、じっとこちらを見つめる目には子供らしさが無い。
覇気の無いその声だけは、年相応に声変わり前のものだ。
そして華奢な手を伸ばし、どうでも良さそうに言う。
「返してぇ」
「え、うん……」
エリックは一瞬、歩いて行こうとする宙を、止めようと思った。が、すぐに理由が無い事に気付いて思い止まる。
宙がぬいぐるみをさし出すと、少女はにぃと笑った。
「ありがとぉ」
ぬいぐるみの手をつかんでぶら下げ、そのまま踵を返して歩いて行く。
公園を囲む木々の向こうに、その姿が消えるまで見送る。
宙にきゅっと手を握られた。
「……宙?」
「あの子、きのうも会ったよ」
言って、不思議そうというよりは不安そうな顔でエリックを見上げる。
「見たことないけど、だれかなぁ」
「……また、会ったら」
「うん。きいてみる」
手を離さない宙を抱き上げ、もう帰ろうかと囁く。
すっかりおとなしくなった宙は小さく頷くと、エリックの首にとりついた。
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