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いつも男達3人が居る部屋。
ドアを開けると、目の前に白銀の巻き毛が見えた。ここへ居着いた死神だ。肩越しに向かれたところへ、訊く。
「坊主は?」
「ここだが?」
膝の上の少年を認め、刃はやっと肩の力を抜いた。宙に御執心らしい黄泉の帝王の元に居るなら安心だ。
部屋に入る。
エリックは奥で読書中で、昼寝中の宙は起きる気配が無い。
「顔色が悪いな」
「ちょいとヤな夢見てね」
言いながら、ドア傍のこの位置は直射日光を避けた配慮と気付き、独り苦笑する。ずり落ちかけた宙を抱きなおしながら死神は言う。
「悪い夢は当たり易い。特にお前のような者はな」
「ヤな事言ってくれるね」
「宙に関わるのだろう? 聞いておこう」
「……そうはっきりしたモンじゃ無ェんだが…」
血を流し、水に沈む宙。薄く開いた瞳は虚ろに青く、目に焼きついた。得体の知れない恐怖と絶望感に叫びかけた時、目が覚めた。
刃が感じたままに喋ると、考え込むように雪空色の目が伏せられた。
「イヤ、傷とかそこがどこだとかは、よくわかんねーんだけど」
「看過できんな……それが何によって齎されるのか判らん以上、宙から目を離すことは出来ん」
「……いっつもあんたか白いにーちゃんが見てるじゃねェか」
「遥霞か? 彼は荒事には向かん」
刃は息を吐いて肩を落とす。
「……使えるのはあんたとオレだけってかい」
「常に、誰かが宙と共に居れば良いだろう」
「……」
過保護だなと言いかけてやめる。言っても利かない事は百も承知だ。
「ほんとに起きるかどうか、あんたが見てみりゃいいんじゃねーの」
「何をだ?」
「黄泉の帝王ともなりゃ先見くらい出来るだろー?」
「無駄だ。宙の未来はまだ変わりつづけている」
「ちっこ過ぎるせいか……ちくしょー面倒な…」
嘆息して髪をかき上げる。少し困った時の彼女の癖だ。
「とりあえず水に近づけなけりゃいいってことか」
「そうとも限らんがな」
「……じゃあどうすんだよ」
死神は答えず、宙の頭を撫でている。
じとりとした視線を向け、嘆息する。
知らせない方が良かった。
おそらく宙は今以上に、この過保護な高次存在に付き添われるようになるだろう。
「まァできるだけ、宙のお供でもするわ」
ひらひらと手を振って、刃は着替えるべく部屋を出た。
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