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   静かになった部屋で、エリックが本を閉じて立ち上がった。主の近くで膝を折る。 「……閣下」 「案ずるな」  目を細め、宙を起こさぬよう、静かに続ける。 「今のところ、悪い兆しも先も見えん。ここは私の力の内だ。まず何も起こらんよ」 「しかし……」  心配そうに宙へ目を落とすエリックの頬に、空いた手を滑らせた。 「お前は、宙が不安にならぬよう、普段通りに居れば良い」 「……ええ」 「戦う力は無くとも、それは大事な事だ」  髪を撫でられるのを目を閉じて受け、エリックは淡く微笑んだ。手が離れる。 「読書に戻れ。宙はまだ当分起きんだろう」  立ち上がって席に戻るエリックを見送り、宙に目を戻す。  近々宙は、泊まりで出掛ける予定だ。何かあっても知れるのには時間がかかる。 (守護の呪が必要か……それとも)  誰か部下を付けようかと考えかけてやめる。そんな事をすれば、宙の機嫌を損ねてしまうだろう。 (……私が動けば良いことではないか)  胸中で嘆息する。  心配のし過ぎだとは自覚しているが、不安は拭えない。  それなりに平穏な地に棲んでいるとはいえ、己も含め人でないものは多く居る。それがふと気紛れでも起こそうものなら、小さな宙は簡単に巻き込まれてしまう。  守護することは容易い。  しかし彼は元々そういった類の存在ではなく、まだ幼い宙のためにも良くはない。  見上げた空は淡い青色。  桜のほころび始めたこれからは、香気に惹かれて様々なものが現れ始める。 (何とかならんものか……)  
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