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「ねー」
声をかけられて宙も振り返る。
宙より少し年上くらいの子が、くまのぬいぐるみをぶらさげて立っていた。
後ろに太陽があるから、顔がよく見えない。
黒いプリーツスカートとしましまのニーソックスが目の前にある。
「……なに?」
「公園ってさー、どこにあんのぉ?」
何だかだらだらした喋り方で、笑ってない。
ちょっと怖いけれど、誰も居ないから仕方なく、公園のある方を指した。
「……あっち。道わたったら見えるよ」
「ふーん。ありがとーぉ」
興味なさそうに言って、その子は靴を鳴らして歩いて行った。
(誰だろ…見たことないや)
ぼんやり白いブラウスの背中を見送っていると、ひょこりと刃が戻って来た。
「公園で遊ぶカッコにゃ見えねェなー」
「刃。どうしてかくれてたの?」
「オレみたいなのは普通居ねーだろ。それより、あの嬢ちゃんの顔見たか?」
「ううん……女の子だったの?」
「ああ」
じっと消えた方向を見ていると、刃は唐突に言った。
「帰るか」
「えー、もう帰るの?」
「疲れたとか言ってたなァ誰だよ」
むくれる宙の腕を引いて、刃は家の方へ歩き始める。
「お前が途中で眠くなっても、オレぁ引きずって帰れねーぞ」
「……うん」
かっか呼べばいいのにと思ったけど、刃は絶対呼びそうにないから言うのはやめた。怒ったら怖いし。
「帰ったら何か飲むかー」
「ぼく、りんごジュースがいい!」
「おぉ。じゃ競争な」
「うん!」
「遅れた方が準備することー」
言っている間にもう二人とも走り始めている。
宙より小さいのに刃は速い。負けじと宙は力いっぱい走るけど、刃は大笑いしている。
笑い声の響く昼前の住宅街はまだ静かだ。
結局、途中で転んだ宙が負けた。
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