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『いえいえ、良いんですよこのくらいは。先輩達の無茶振りにもそろそろ慣れてきましたから』
江戸村は軽快に笑う。実際にどんな顔をしているのか、いくら名探偵と言われる籠島にも窺い知れないところだが、少なくとも、江戸村が善人ではないことは知っている。
「それで……どうだった?」
本題に入る。籠島としての理想は、江戸村からその手の元売人を伝に、根源を探ろうと言う腹積もりだったがーーたった今、江戸村に断られてしまった。
『……先輩は、どう考えているんですか? この事件、そんなに緊張する程大きいんですか?』
「……『事件に大きいも小さいもない』って、声を大にして言いたいところではあるけどね、そうだなーーぶっちゃた話、そこまで深刻でもないと思うんだわ」
籠島は言った。言葉の通り、口調に焦りや不安と言った負の感情は感じ取れなかった。
「多分、個人的な事件なんだろうな。殺しも無いし、焦る必要は無いと思ってる」
まだ憶測の段階だけどな、と補足も忘れない籠島だ。
『そうですね、よっぽどのことがない限りは』
残念なことに、その『よっぽど』のことが起こるのだから、皮肉である。
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