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(……それにしても、警察にも話したはずなのに、メディアにも発表されたのに、やけに世間への浸透が低い……)
普通、テレビを通じて広まった事は、かなりのスピードで人々の脳に記憶されるはずだ。
確かに、ニュースの規模にもよるし、同時刻にそれ以上の大きな事件もあったかもしれないが、それにしたってだ。
「……考え過ぎかな?」
その時だった。
カラコロン、と言う玄関ベルの音で、籠島は不意に現実に戻された。
尾張が玄関に顔を向けると、そこには一人の少女がいた。年齢は15、6くらいか。
下校途中なのか、制服のままで、額にはじんわりと汗が滲んでいた。肩で息をしている。ついさっきまで走ってきたらしい。スクールバッグがやけに重たそうに見えた。
「……ここ……探偵、事務……所、ですか?」
息を切らしながら、少女は言った。
「ええ、そうよ」
尾張が相変わらず静かな口調で答える。しかし、ただ事ではないようだと悟り、急いでドアを閉め、鍵を掛けた。
「何かお困りですか、お嬢さん?」
籠島はいつもの営業スマイルで、少女を近くにあった椅子に座らせた。
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