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誰かが私の名前を呼んでいる…。
誰の声か…わからない。
重い瞼を開けるとひび割れた鏡張りの狭い部屋の中にいた。
鏡に映る自分は真っ青な顔をしている。
震える指先で頬に触れ、唇に触れた。
私…どうしてしまったの?
部屋の中を見渡しても、全てが私を映す。
後ろから誰かの手が私の肩に触れた。
驚いて振り返ると…それは私だった?
「キョウカ…ごめんなさい。」
「っ、誰?」
悲しそうな顔の私が私の頬を撫でる。
「私はキョウカ。貴女の中のキョウカ。」
この人が20年前のキョウカ…?
「私と貴女は違うっ!」
つい大きな声をあげてしまう。
それでも柔らかく微笑むキョウカ。
「もう、貴女の邪魔はしない。貴女は貴女の思うように生きて。カインが嫌いなら、無理に好きにならなくてもいい。リュウが好きならそれを伝えればいい。」
この人…カインの事が好きなくせに…。
本当はカインの事を求めてるのに、どうして?
前から気になっていた事が私の口から溢れた。
「どうして…春井さんじゃなくカインを選んだの?」
キョウカが微笑む。
「リュウに出会った時、私は人間じゃなかった。ううん、それだけじゃない。私がカインに惹かれたのは…」
キョウカの手が私の頭を撫でた。
「貴女ならきっとわかる筈。だから、貴女が求めないなら私の記憶を貴女に映す事はしない。」
「……」
キョウカが手を伸ばし鏡に触れた。
「待ってっ!」
キョウカは私とは違う表情で大人っぽく微笑む。
「春井さんは今でも貴女を…」
微笑み頷くとキョウカは鏡の中へ消えて行った。
胸を締め付ける切なさが涙を呼んでいる。
泣きたくなんてないのに…涙がポロポロ零れた。
やっぱり春井さんが好き。
キョウカの影響なんかじゃない、私の意思で春井さんが好きなんだ。
春井さんが今でもあのキョウカを好きだとわかっていても、憧れを越えた感情が生まれていた。
拒絶されても、迷惑がられても…あの人が好きだ。
突然私だけを映していた鏡が崩れた。
霧のような靄に包まれた真っ白な空間。
違う、何かある!!
ドアを見つけた。
まっすぐそのドアへと走る。
でも走っても走ってもドアには辿り着けない。
「はぁ、はぁ…どうして…」
「それはね…そのドアは出口じゃないからだよ。」
声のした方を振り返る。
「誰っ?」
優しい微笑みを携えた金髪の男の人。
この人どこかで…
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