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林さんは私に振り返ると、目深にかぶった帽子を奪う。
「泣いてんの?何か言われたの?」
「ちがっ、感激しちゃって…」
「まぁ、無愛想で寡黙だとは聞いていたけど…司を泣かせるなんて!」
林さんは怒りながらアクセルを勢いよく踏む。
「は、林さんっ、別に何か言われたとかじゃなく…あのっ、安全運転でお願いしますぅー。」
「司がファンだって言うから詞の提供をお願いしたのはこちらですけど、司を泣かせるなんて…何様?まったく!後で抗議の電話してやる!」
林さんの怒りは運転に影響して、恐ろしくてシートベルトをぎゅっと握った。
「マジで、そういうのやめてよ?これ以上嫌われたくないんだから…!!」
「これ以上って…司、嫌われるような事言ったの?そうじゃないでしょ?」
「そ、それはそうだけど…、て言うか…マジで安全運転してーっ!!」
林さんはタイヤを鳴らしながら左折して急ブレーキを踏む。
「もーっ!危ないじゃん!!」
「ごめんごめん。とにかく今日はゆっくり休んで。明日早いから、目覚まし忘れないようにね。」
「はーい。お疲れ様でした。」
車から降りるとマンションの入り口に向かった。
「はぁ…疲れた。」
エレベーターが着き、チンと扉が開く。
それにしても…林さんの運転には本当に参る。
命が幾つあっても足りない気がする。
知的で美人なのに、スピード狂ってどうなの?
エレベーターは私の部屋の階まで着くと、チンと言って扉が開く。
バッグから部屋の鍵を取り出し、ドアを開く。
びゅうっと風が部屋から玄関のドアをすり抜ける。
「わっ、窓開けっ放しだった?」
驚いて部屋の中へ急ぐ。
持っていたバッグを足元に落とす。
「っ!」
開いている窓口に誰かが腰掛けている。
「ど、泥棒ーっ!!」
ソファからクッションを投げつけた。
泥棒は後ろ向きのまま見事にクッションをキャッチ!
そしてゆっくりこちらに振り返る。
暗い部屋の中で微かに見える泥棒の影に後ずさる。
「おい!この高さから物が降って来たら…下の人間怪我するぞ。」
低い声…。
ってここ…34階なんですけど!!
窓から侵入?
あり得ない!警察警察っ!!
足元のバッグから携帯を探そうと手を伸ばすと、その手を泥棒男に握られる!!
「きゃあああぁぁーっ!」
窓から一瞬のうちに目の前に現れた泥棒男に口を塞がれる。
「黙れ…」
長身の泥棒男がめ!め!め!目の前に!!
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