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「…?岩井?」
話の途中で急に黙り込む岩井を見上げた。
周辺の空気が止まったように、人も音も全てが動きを止めた。
「これは…」
そうか…と頷き、春井は瞼を閉じてそれを待った。
カツンと音がしてゆっくり瞼を開けた。
「あの時の…悪魔?随分変わったね。」
「ああ久しぶりだな。」
周りの全てから気配や音が全てが消えた不思議な空間。
「僕に…何か?」
目の前の悪魔はあの頃の顔とはまったく違うが、オーラと迫力はあの時と一緒だと感じた。
「キョウカが壊れそうだ。」
瞳を見開きカインを見つめた。
「どうして…」
「キョウカの中で20年前の記憶が蘇ったり、自分の感情が何かわからなくなっている。心が壊れるかもしれない。」
春井はカインから目を逸らし首を振った。
「僕にはどうする事も…」
短いため息が聞こえ顔を上げた。
「ああ、そうだな。九条司は暫く入院するだろう。言いたい事はそれだけだ。邪魔したな。」
カインが指をパチンと弾くと目の前から消え、周りの空気が何事も無かったように動き出した。
「リュウ?どした?」
岩井に声をかけられ、首を振った。
「外、騒がしいな。」
岩井は楽屋のドアを開けると辺りのざわめきに耳をすます。
外から救急車のサイレンがけたたましく鳴り響き、こちらに近づいて来る。
岩井がドアを閉めると春井の顔を覗き込んだ。
「九条司…倒れたらしいよ。」
外の騒ぎは一層激しくなり耳を塞いだ。
「リュウ、大丈夫か?顔色悪いぞ…。」
「平気だ。」
春井は天井を見上げた。
真っ白な天井に、あの頃のキョウカとの思い出が浮かぶ。
そして悲しそうな顔をして走り去ったキョウカの魂を持った女の顔が胸を締め付けた。
ドアがノックされ、スタッフから時間だと告げられる。
強く瞼を閉じて、ライブ前の緊張感と高揚感を取り戻す。
「行くか。」
「ああ、リュウしっかりな!」
岩井に肩を掴まれ、いつもの自分に戻る。
カインが告げた言葉を心の引き出しに仕舞い、集中してスタジオへと向かった。
担架に乗せられ目を閉じたままの九条司とあの悪魔とすれ違ったが、春井はまっすぐ前を向いたまま振り返らなかった。
ライブ会場代わりのスタジオは熱気に包まれ、自分を待ち望んでいるのだと感じる。
「岩井、最後だけ曲目を変えたい。」
「はっ?今更?なんで…」
「久しぶりにHEARTSが歌いたくなってね。」
唖然とした岩井を残しステージに向かった。
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