第零楽章:終わりの音と始まりの音

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壁も床も一面真っ白な部屋の中、一際目立つ様に置いてある漆黒のグランドピアノ。グランドピアノの前に立っている一人の少女は静かに鍵盤を指先で弾いた。だが鍵盤からは音はしない。ただ、鍵盤を押す鈍い音しか聞こえない。 「ピアノは音が出なきゃただのガラクタ。音が出ればピアノになる」 少女は鍵盤を指先で触っていた。まるで肌を触るかの様にしなやかに。 すると一人の少年が少女の隣で鍵盤を弾いた。少年が押したのは高いソ。音は静かな部屋の中で響いた。少女は少年の方を向き、悲しそうな表情を浮かべていた。 「私が弾いてもやっぱり何も聞こえない。だけど貴方が弾くとまるで命を授かった様に聞こえる。同じ体から、同じ様に育ったのに何故?」 「‥‥それは僕にだって分からない。一つ言えるのは君は僕であり僕は君である。例え僕が音を出しても他人からは聞こえない。君が聞こえなくても他人からは聞こえる」 少年は冷めた表情で少女に言い、鍵盤を弾いた。彼は両手を使い奏でた。彼が奏でている曲はピアノ協奏曲第5番「皇帝」 彼はまるで鍵盤の上で踊るかの様に優しく指先で弾いてる。だが曲の雰囲気はとても重く暗い。本来の「皇帝」とは違った感じだと少女は思った。 「僕は奏でるのは好き。命が吹き込まれてると君は言ったが、僕には感じない。逆に僕には命を殺してるにしか聞こえない。そう、全てを真っ黒にしてる様にしか」 「‥‥そんな事はないと思う。貴方は美しい音と共に命を‥‥‥」 「そんなのは嘘だ。君には到底分からない。いや、誰も分からない。君は僕とは違うんだ!!!」 鍵盤を思いっきり押し、様々の音が部屋に響き渡った。次第、真っ白だった壁や床が真っ黒に染まり始めた。少年を起点にして、真っ黒に染められていく。
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