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プロローグ
昔、隣の家の娘に恋をした。
といっても、こちらは小学生、相手は二十歳過ぎた女子大生。女の先生に憧れるとかそんな類いのもので、なんなら初恋と呼んだってかまわない。
美人でもって、とびきりやさしい人だった。夏には近所のプールやお祭りに、冬になればスケートリンクに連れて行ってくれた。
根っから子供の好きな人だったのだろう。そうでなければ俺のような不細工な子供を可愛がってくれたりはしないはずだ。
子供の頃にろくな思い出がない俺にとって彼女とのひとときは、宝石のように大事な思い出だ。こんなことが永遠に続けばいいのになと俺は子供心に願った。
それでも彼女が嫁ぐ日はやってきた。
律儀にも彼女は両親と一緒に、俺の家に挨拶にきてくれた。俺は自分の部屋から出て行かなかった。なぜかわかってくれるよな?
子供心にも自分の恋が終わったと思った。
しばらくすると、階段を上がる音が聞こえて、部屋の扉が開いた。
「ひろし君、ごめんね」
彼女はそう言った。
きっと俺の気持ちを知っていたんだろう。
そして背中を向けている俺の横に座ると、こう言った。
「ひろし君にもきっと、いつの日か、守ってあげたいと思う人大切な人が現れるよ」
中学生になってもそんな人は現れなかった。高校生になっても。
そして、俺は大学生になった。
相変わらずのゲームとアニメ漬けの毎日。
あのときの言葉は実現しそうにない。
キャンパスに立って、あの頃の彼女と同じ年頃の娘たちを眺めながら、この中に俺の大切な人がいるんだろうか?なんてことをふと思ったりする。
だが実際には俺になんか目もくれず、皆俺の横を通り過ぎていく。
俺はこの夏から一人暮らしを始めることになった。と言っても、俺は地元の大学に通っているので、下宿するわけじゃない。オヤジが海外勤務になり、オフクロもそれに同行することになった。その結果俺がひとりこの家に残ることになったというわけだ。
「掃除はちゃんとするのよ。それから火の始末はしっかりね。ああそれから・・・・・・こんなことなら私やっぱり残ったほうがよかったかしら」
出発間際までオフクロは口うるさくあれやこれやと注文を付けた挙げ句に、こんなことまで言い出した。そんなに俺って信用ないのか......
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