第1章

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黒田さんは、俺たちチームの心を買ってくれた。 テレビに出てしまうと、どうしても色んな取材が殺到するようになる。 それが人気女優御用達のお店となると、どの会社も自社との取引を成功させたくて必死になっていた。 店へ足を運んでしか買えないくろべぇの商品を、 もしネットで取り扱う事が出来れば、それはもうかなりの宣伝効果が期待出来る。 俺が勤めている会社オージックスも、小さいながらにそこへ目を付けた会社の一つだった。 俺を頭とする五人のチームで交渉に取り掛かり、 あらゆるアイディアを出し合って黒田さんとの交渉に挑んで来た。 横浜から福井まで何度も足を運び、どれほど出張費がかさんだことか。 交渉を始めた最初の頃なんて、門前払いの日々だった。 それでも何とか諦めずに食らい付き、やっと店主である黒田さんが話を聞く姿勢になってくれたのは、 通い始めてから四ヶ月ほどが過ぎようとしていた頃だ。 未だ人気の劣らない和菓子屋くろべぇの店主黒田さんは、とにかく頑固。 俺も頑固なおっさんだとは思っていたが、 それに輪を何重にもかけたぐらいの頑固一徹で、はっきり言って交渉は希望もなく停滞していた。 そこに現れたのが、新入社員の沢部だった。
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