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とうとうこの日が来た。
「随分長い時間、お待たせしてしまいました。伊崎さん達には本当に申し訳なかったと思っています」
重厚な雰囲気を持つ黒田さんは、その少し固い真面目な顔を微かに緩ませる。
真っ直ぐに目を見つめ話す姿は、この一年間ずっと見て来た。
「一年間、試すような態度を取ってしまいすみませんでした。私共としてもとても心苦しかったんです」
歳は五十を越えているが、まだまだ精力的に見える黒田さんは和菓子職人だ。
噂が噂を呼びテレビでも取り上げられるようになった有名店で、通信販売は一切実施していない。
そんな黒田さんに、この一年間ずっとその方向でのアプローチを続けて来た。
「私共の仕事は全て手作業です。昔ながらの古臭い頭なもので、ネットで販売をするなんて事は今まで考えられませんでした」
全国区で有名になった和菓子屋「くろべぇ」に目を付けた会社は数え切れない。
ネットは勿論のこと、大手の百貨店からもお誘いが来ていたらしい。
それでも全て断って来た頑固一徹な黒田さんがいま、真っ直ぐに俺を見ている。
そして、隣に正座している沢部を。
「伊崎さん、そして沢部さん」
改めて伸びる背筋は沢部も同じようで、二人同時にピンと背筋を正した。
心構えはもう、随分前から出来ている。
「あなた達の忍耐、そしてその人柄に心に打たれました。これからどうぞよろしくお願いします」
この会社に勤め始めてもうすぐ二十年。
これほどの快挙は初めてだった。
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