Neurose

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「僕はもう二度とキョウカには会えなくていいと…自分から言ったんだ。もしも、また会えたなら…キョウカとの美しい思い出の記憶は消えてしまうだろう。僕は…それを望まない…。」 「春井さん…。」 本当に本当に…キョウカの事を愛してるんだ。 キョウカはなんて幸せなんだろう。 一雫頬を伝う涙。 同じ名前と同じ顔だけど…私には敵わない。 「…うっ…、キョウカ…」 私の腕の中で身体を起こそうともがくカイン。 「カイン、大丈夫?」 「ああ。もう、平気だ。」 光のシャワーを浴びせている男の人に手を上げる。 「アザゼル…これはなんの余興だ?俺を嵌めたのか?」 「ふふっ、仕返しだよ。」 「仕返し?何のことだ…」 「さあね。運命の二人だかなんだか知らないが、こちらは結構迷惑したんでね。」 「?」 「それに、簡単に幸せを手に入れてもらいたくないんでね。」 アザゼルはくくっと喉を鳴らして笑った。 「キョウカ、本当に大事な物は…無くしたと思っても、意外に戻って来るものだな。俺にはそれが良くわかる。」 カインと同じ銀髪の男は背中の翼を大きく広げ、ふわりと舞い上がる。 「俺は堕天使アザゼルのジェイ。また、会おう。」 目の前から空高く舞い上がり、夜の闇の中へ消えて行った。 「私…今の人…、見たことある。バンドの人…ですよね?」 春井さんを振り返ると柔らかく微笑んでくれた。 「イギリスのバンド、タナトスの元ベーシスト。」 そんな人まで悪魔なの? 「悪魔って…一体どれだけ人間に紛れてるの?」 「ふふっ…」 二人が笑い出した。 「帰るぞキョウカ。」 カインの腕に引っ張られ立ち上がる。 春井さんが私のスーツケースを持ってきてくれた。 「あの…春井さん…」 「傷つけてすまなかった。でも、君には彼がいる。僕が…もっと若ければ…、ふふっ。冗談だよ。」 繊細な手で頭を撫でられて、胸がぎゅっと締め付けられた。 これで…私はちゃんと失恋出来たんだって思った。 カインが私の肩を抱き寄せ、腕の中に閉じ込められる。 そして…
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