15人が本棚に入れています
本棚に追加
二日後に退院した。
迷惑をかけた事務所に挨拶に向かう林さんの車の中で、林さんが私の顔を覗き込む。
「本当にもう大丈夫なの?もう少しゆっくり入院していても良かったのに…」
「大丈夫大丈夫。病室だと少し窮屈で…疲れちゃうからさ。」
ふーんと林さんが頷く。
「お父様には会いに行かないの?」
「うん…、また連絡が来た時に会いに行こうと思ってる。」
勝手に会いに行くと…会いたくない人に会ってしまう可能性があるから…とは言えなかった。
事務所に着いてドアを開けるとみんなが一斉にこちらを向いた。
「司ちゃーん!」
「もう大丈夫?少し痩せた?」
みんなの笑顔に迎えられ、笑顔で答える。
視線の先にカインが担当している新人の白木ほのかがいた。
私の方へと駆け寄り大きな花束を差し出す。
「九条さんっ!退院おめでとうございますっ!!」
「ありがとう。」
受け取った花束から甘い花の香りがした。
「綺麗…」
花を見つめ、視線はカインを探す。
ほのかが私の顔を覗き込む。
「九条さん、私すぐ出なきゃいけなくて…、すみませんっ!お身体お大事にして下さいねっ。」
「うん。ありがとう、頑張ってね。」
ほのかが駆けて行く先に…腕組みをしたカインの姿を確認した。
ほのかの背中に手を添え、事務所を出て行くカインの背中…。
ずきんと胸が痛んだ…。
ほのかはカインの顔を見上げて嬉しそうに微笑んでいる。
ぱっと目を逸らし、社長室へと向かった。
暫く社長と話し、今日は帰る事にした。
林さんの車でマンションに送ってもらった。
「あと2、3日はしっかり休んで、それから仕事復帰してもらうけど…どこか出掛ける時は必ず連絡してね?」
「…わかった。…えっと、あの…」
「なに?どこか行くつもり?」
「うん…。ちょっと、友達が軽井沢にいるんだけど…行ってもいいかな?」
林さんが少し怪しんでいるような目をする。
「女の子?」
「も、もちろん。」
「そう。ちゃんと連絡取れるようにしてくれればいいよ。ちゃんと変装して出歩いてよ?」
「わかってる…。」
「駅まで送ろうか?あんまり時間無いんだけど…」
「あっ、大丈夫だから。仕事行って…」
そそくさと車を降りた。
そして玄関に置いてあるスーツケースを持ち、タクシーで駅へと向かった。
最初のコメントを投稿しよう!