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春井さんに…会える。
胸の鼓動が周りに聞こえるんじゃないかってくらい身体中に響く。
何か悪い事をしに行くような…変な緊張感と、誰にも見つかってはいけない緊張感が私の手を震えさせる。
軽井沢の駅に着き、春井さんに電話する。
緊張で声が上ずってしまう。
暫くすると春井さんが車で迎えに来てくれた。
春井さんは柔らかく微笑んで助手席のドアを開けてくれた。
春井さんの車は観光客がひしめく街を抜け、別荘地へと向かった。
車内では緊張して話せなかった。
林を抜け、一軒の建物の前で車は止まった。
「ここ…」
林に囲まれたその建物の前で呆然と立ち尽くす。
「荷物…これだけ?」
「あっ、はい…。」
慌てて荷物を取りに行くと、私のスーツケースを持った春井さんの手に触れてしまう。
「も、持ちます!」
「大丈夫だから、おいで。」
カッコいい…!!
まるで王子様の様な優しい笑顔でおいでと言われ顔が真っ赤になる。
春井さんの後ろから別荘の中へと入った。
「っ!ここも…」
あの映像が蘇る。
ドアを開け、ピアノが置いてある部屋へと通される。
そこは窓からテラスへ出られる部屋で、カラカラと窓を開けるとウッドデッキがあり、見覚えのある風景に立ち尽くした。
「座って。今、コーヒーを…」
椅子に座るよう促され、目の前の林をじっと見つめた。
あの林からキョウカは切ない気持ちで春井さんを見つめていた。
私の中で…あのキョウカは私を見ているのかな?
後ろから春井さんが淹れたてのコーヒーを持って来た。
「どうぞ。」
「ありがとうございます。」
春井さんは空を見上げた。
私もつられて空を見上げた。
「この空を見ていると、たまにいろんな悪魔が降りて来るんだ。」
「えっ?嘘っ…」
「でも、この建物には足を踏み入れる事は出来ないらしいよ。」
「そう…なんですか…」
春井さんが林を見つめた。
「この景色を見て…驚いてたみたいだけど、何か思い出した?」
「……」
答えたくない。
キョウカが春井さんを見つめていた事なんて…。
「君は…20年前のキョウカに会ったと言ったね。」
「…はい。」
「僕も…会えるかな?」
「えっ?…」
春井さんの瞳が艶めいている。
もしかして、それが目的で私を呼んだの?
「あの…私、帰ります。」
その場から立ち去ろうとする私の手首をぎゅっと掴まれる。
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