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 ―今は昔、奈良の京より日向かしの晶(あきらかの)森なる所、神通巫女(みとおしのみこ)といふ姫ありけり。  其の姫歳十五、六なりても長長しく、またいとまばゆし。晶森の村衆、皆姫を懐かしと思ひて、日々まめまめしく仕えたり。  其の村妖しきことには、女子皆すがたかたち清げなり。是まさしく村衆の、皆持ちたる玻璃(はり)のしるしなるべしとぞ、人は語り伝えたる。其の村まほなる玻璃数多ありて、双無しとなむ聞こえつ。  嘗て名立たる賊の頭なる、是を聞きて玻璃を盗まんと思して、馬十五頭にて晶森へ渡りたり。  賊、京にも轟きたるつわものなり。物盗り、姦淫、殺人など、わろき事ども繰り返したりつ。  賊ども晶森の道半ばにして、沢の流れの広くしづかなる河原に着きぬ。  頭、喉潤さんとて、流れのうちに足を踏み入れ、手結びて清水を掬うに、何誰かの影あり。  頭見上げて見るに、向かうの河岸に、大きなる窪みあり。その陰に、小さき童子居りぬ。  その童隈無きに頭いと妖しがりて、眼細め見るに、 童いとらうたき声にて、「こは神通巫女より遣されたし。そなたらはいづれの用ありて来なむ」と騒ぎつ。  頭、「我ら、商いにて来にけり」と言えば、童、 「御鍵掲げよ」と。頭欺かむと思して、前に盗りたり寶盤の、いときらびやかなるを掲げたり。  これを見て童、「山に掲げよ」と。妖しがりて向きたるに、童、 「そなたら偽物たり。焼打たれるべし」と言ふ。即ち光集まりて、賊、皆焼かれぬ。之山の怒りなるべしとぞ、人は語り伝えたる。
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