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必然的に生い立ちビデオでも、紹介されるエピソードが徐々に大雑把なものに変わり、内容も薄いものに変わっていく。そうして竜頭蛇尾といった印象を与る仕上がりで、僕の人生はおおよそ五分、三〇〇秒の映像にまとめられていた。
――END
スクリーンに映し出された三文字のアルファベットが薄れていく。
会場内に灯りが戻ってくる。
僕も思い出の世界から、再び披露宴会場へと引き戻された。
そして再び動揺を来したのだった。
再度、新婦の友人席にいる見知った顔が視界に入ってしまったからだ。
「本当に素敵なお二人ですね」
司会者の女性は羨ましくなるほど落ち着いた声をしていた。安定していた。彼女は首を僅かに傾け、そうしてはっきりとしたビジネススマイルを貼り付けて、優子と僕の方を向いた。
僕は気恥ずかしさからか彼女の視線から逃れるように暗くなったスクリーンシートを見つめた。視界の端では、やはり一美の視線が気になっている。
左手の甲はまだ温かかった。
僕の視線の先では大型スクリーンが天井から下がったままでいる。引き上げられはしないようだ。友人が行なう余興か何かで再度使用されるのかもしれない。
そこでふと、僕は優子に救われたのだということに気がついた。彼女は掌の暖かさだけでなく、その用意周到さでも僕を助けてくれていた。
先のエピソードは紛うことなき僕の話だった。つまり僕の知人が、小林一美が見ても、何ら違和感を覚えないということだ。そこに気づいた僕は、まだ完全に凪の訪れない心境ながらも、一つ安堵の息を漏らした。
その後、披露宴は順調に進んでいった。
特別大きな問題は起こらなかった。これは自由な歓談の時間が極端に少ないからだ。もちろん優子の配慮なのだろうけれど。
そのため新郎新婦席にまで友人らが写真を撮りに来て、そのまま話をすることになるといったことがなかったのだ。
あと三〇分、残りは四分の一だ。
僕は変らず視線を客席のやや上方へ向け、顔は正面を向いたまま、努めて笑顔を浮かべている。
このままであればどうにか乗り切れる。
そこで、ふっと肩の荷が下りたような感覚が訪れた。安堵と共に達成が沸いてくる。気持ちが一段と落ち着き、視界がもう一回り鮮明になった。
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