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「それでは続きまして、サプライズイベントのお時間です!」
司会の女性が合図するや、優子はぎゅっと僕の腿を掴んだ。震えが今までとは比べものにならないほど大きくなる。
「新婦よろしいですか?」
司会の女性の声に彼女は小さく頷いた。
サプライズ……イベント?
それはその名の示す通りの催しで、僕にも全く知らされていなかった。背筋に冷たいものが走る。人はやはり自身の理解の及ばないものに恐怖するようだ。
いくらリアリティを出すためとはいえ、僕にまだ内緒にするなんて。
これには思わず唇を噛んでしまった。ここは当然アドリブでの対応が求められることになる。最後にして最大の山だろう。この最終局面で僕がヘマをやらかせば、これまでの彼女の努力が水泡に帰してしまう。代行業者として、それだけは絶対に回避しなければならない。
――ここを新郎として無事に切り抜ける、それこそが僕の仕事だ。
僕は取り戻した五感を意識的に尖らせ、笑顔のままで集中し、これまで出席した幾多の披露宴を思い浮かべた。今から起こるであろうことに備え、予測する。こうした場合の多くは新郎から新婦へ薔薇と手紙のプレゼントだ。けれど僕は、その逆というものを見たことがなかった。
新婦からのサプライズとなると一体どういったものだろう?
なかなかしっくりくるイメージが沸いてこない。
……まさか、ここでこれまでのこと、代行のことをバラす、とか?
危険な考えが目の前を右から左へと駆け抜けた。優子の震えが一層大きくなる。それから覚悟を決めたかのようにグッと僕の腿を掴んだ。
えっ、本当に? せっかくここまで頑張ったのに?
しかし彼女がそう望むのであれば、僕にはそれを止めることはできない。もしも優子が腹を決めたのであれば、僕が偽の新郎であること、本物の新郎には逃げられてしまったこと、それを明かすというのであれば、その後どういった流れになろうとも僕はきっちりと対応しなければいけない。彼女を守ってあげなければいけない。
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