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優子が静かに立ち上がった。
膝ががくがくと震えている。極度に緊張している。しかし一歩一歩、決意が滲む足取りで、彼女は司会者のもとへと歩を進めた。
「それでは新婦、優子様。お願いします」
司会者がそう促すと会場の照明がパチッと唐突に消えた。調光のつまみを絞るというのではなく、スイッチをOFFにしたような消え方だった。
途端に温かい闇が会場内を一杯に満たす。
僕はその中でチャンスとばかりに表情を崩し、首を回した。肩も回した。えらを張るようにして口を横に広げ、大口を開いたり閉じたりした。誰にも見られていない暗闇での行動にかけては、僕には一日の長があると言えるだろう。これから起こることに柔軟に対応できるよう、僕は心身を備えたのだ。
少しの間の後、スポットライトがパッと優子の白い肌を照らした。 続いてその暴力的で直線的な灯りが僕の頭上にも降ってくる。
優子が潤んだ瞳で僕を見ていた。
僕は「頑張れ」と目顔で応援した。
優子が客席に向かって一礼する。
そして硬い表情のまま、震える声で語り始めた。
「幸雄さん、私は今日、このような日を迎えることができ本当に幸せです」
優子の視線が手元に広げた手紙から、ちらりと僕へと向き、それから再び手紙の文字へと落ちていった。
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