change a past of mine -------->

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「ええっ! 新郎ですって!」 せっかく茂が和らげていってくれた緊張も、優子の一言によって瞬く間に堅牢さを取り戻してしまった。 「ちょ、ちょっと幸雄さん……そんな大きな声で……」 まるでデジャヴだ。彼女は慌てたように周囲に視線を走らせ、顰めた声でそう言った。さっきの茂と同じ仕草だった。僕は二人共に言いたい。そんなことを告げられ、驚くなとは無理があるだろう、と。 しかも今回、僕の驚きは二つあった。 一つは聞いての通り、僕が演じる相手が彼女の兄などではなく新郎であったこと。もう一つは佐藤優子が信じられないほど美しい女性であったことだ。 しかし後者はさておき、前者はボタンのかけ違えという些事では済まない。あまりにも大きな認識のずれだろう。 「いやそれはちょっと……話が、全然違う」 僕は独り言を呟くように言った。 「……そんな。こちらは最初にCAPサポートさんにお電話した際に、そう伝えています」 加藤か? 加藤博が聞き間違えたのか? しかしそれであってもこれは、一度でも顔を会わせ、きちんと打ち合せさえ行なっていれば見つけられていたであろう差異だ。僕はすっかり言葉を失い、視線はテーブルの上、己のコーヒーカップと彼女のカフェオレのカップの間を行き来するばかりだった。 「あの、もう時間がありませんし、その……幸雄さん、お願いします」 目線をカップに伏せたままでも、彼女が今にも泣き出しそうであることは声の調子で分かった。僕はあまりに美人である彼女の顔を、まともに見られなかった。肌は透けるように白く、唇はほのかに赤い。これで素面というのだから、メイクアップした彼女はどれほど輝いてしまうというのだろうか。照れというよりも恐れ多いという気持ちから、僕は彼女の首より上へ視線を送れなかった。 「あの、幸雄さん……」 「わかり、まし……た」 こうして僕は、やむなく新郎の役を了承した。この場で断ることなど、小心者であるからこそできない。残されてしまう優子のことを思えばなおさらだ。 こうして僕は、用意されたサイズぴったりの白いタキシードに袖を通し、優子と並んで披露宴会場へと入場したのだった。披露宴開始までの数時間の間に必死に流れを確認して。 けれど右足から踏み出すように言われていたにもかかわらず、僕は最初の一歩から躓いてしまっていた。
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